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少年法改正法案につき参議院において修正を求める声明

2007.05.08
熊本県弁護士会 会長  三藤省三

参議院が,衆議院により可決した少年法改正法案(以下「本法案」という。)
の送付を受け,これを審議するに当たり,当会の意見を表明する。

そもそも,本法案の提案理由とされている少年事件の低年齢化,凶悪化という立法事実は存在せず,この点についての検証が衆議院で全く行われていなかったことは遺憾であるといわざるをえない。

もっとも,【1】ぐ犯少年の疑いのあるものに対する警察官の調査権限が削除され,【2】国選付添人選任の効力が少年の鑑別所よりの釈放後も最終審判まで維持されることの修正がなされたことは大いに評価する。
他方,【1】少年院収容可能年齢を「14歳以上」から「おおむね12歳以上」に引き下げ,【2】触法少年の疑いのある者について警察官の調査権限を新設し,【3】保護観察中の遵守事項違反を理由とする少年院送致を新設するなどの多くの問題点が残されている。
まず,少年院送致は保護処分であるが,当該少年にとっては不利益処分であることは判例も認めるところであり,憲法31条の保障は少年手続にも当てはまるところ,「おおむね12歳以上」という規定は,憲法31条の明確性の要請を満たしていない。そもそも,保護処分を受ける少年の大多数は,貧困家庭・欠損家庭に育っていることは犯罪白書によっても明らかであるが,さらには,虐待の経験を有する子どもであることも少なくない。低年齢で少年非行に陥る子どもには特にこの特徴が顕著である。このような特徴の少年が再非行に陥らないためには,福祉的観点からの「育て直し」が重要である。少年院送致は,福祉的観点への配慮に乏しくその弊害のみが懸念されるところである。

次に,少年は,暗示・誘導の影響を受けやすく,これはこれまでの少年手続においても認識されていたところである。この危険は,低年齢の少年になるほど大きい。すなわち,警察官が被疑者を取り調べるように触法少年と疑われる者から事情聴取を行うことにより,事実と異なる自白をしてしまう危険性は高い。それにもかかわらず,本法案には,弁護士の立会いを保障したり,事情聴取をビデオ録画するなどの手続が確保されていない。

さらに,保護観察は,保護観察所・保護司の指導・援助のもと少年の自律的更生を図る制度である。そして,この自律的更生のためには,保護司の全人格に対する信頼に裏付けられた少年自身の同意・納得が不可欠である。しかし,少年院送致の威嚇のもとに指導・援助がなされるならば,保護司の全人格に対する信頼に裏付けられた少年自身の同意・納得を期待することはできず,保護観察の制度趣旨が損なわれる危険性が大きい。加えて,保護観察処分に併せて少年院送致処分に付することは,憲法39条が二重処罰を禁止する趣旨に違反する。そして,従来保護観察における遵守事項は,「仕事に就く」,「悪友との縁を切る」,「携帯電話の電話番号を変更する」等,細かい事項についても柔軟に定め,これらを目標として少年の更生意欲を生じさせる運用がなされていたが,遵守事項違反が少年院送致事由となるならば,このような柔軟な運用が著しく困難となり,少年の自力更生に役立たなくなる。

よって,当会は,参議院において,慎重なる審議がなされ,残された問題点についてさらなる修正がなされることを,強く求めるものである。