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教育基本法改正に反対する会長声明

2004.10.15
中央教育審議会は,2001(平成13)年11月,文部科学大臣から,新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について諮問を受け,審議を重ねてきたが,2003(平成15)年3月20日,かかる審議結果をまとめた「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について」と題する答申を提出した。
 その後,与党内に設置された与党教育基本法改正に関する協議会は,2004(平成16)年6月16日,「教育基本法に盛り込むべき項目と内容について」と題する中間報告(以下,単に「中間報告」という。)を公表するなどし,これをたたき台とした教育基本法改正法案が来年にも国会に上程される見通しであるといわれている。
 教育基本法は,その前文で憲法との繋がりを示すなど準憲法的な性格を持つ教育法規の根本法であるにもかかわらず,今回は,国民全体にわたる議論がほとんど喚起されないまま,性急に改正案が国会に上程されようとしている。
 しかも,中間報告の内容は,憲法・条約といった上位規範に抵触しかねない点で多大な問題を内包している。
 すなわち,中間報告は,教育基本法前文中の「憲法の精神に則り」という文言の取扱いを今後の検討事項としているほか,同法1条の「個人の価値をたつとび」などの文言を削除するなど,憲法との繋がりや憲法上の価値を軽視する姿勢が顕著である。また,中間報告は,「教育の目標」の一つとして「伝統文化を尊重し,郷土と国を愛し(大切にし),国際社会の平和と発展に寄与する態度の涵養」を挙げているところ,国民それぞれが自発的に醸成すべき郷土愛・愛国心といった心情を国が国民に対し強制することはもとより許されず,思想良心の自由(憲法19条)との関係で重大な問題を孕んでいる。さらに,中間報告は,「公共の精神」の涵養を重視しているところ,中間報告が教育基本法の根本理念を明確にしていないこととも相まって,「公共の精神」が過度に強調される結果,個人の尊厳が害されるおそれのあることもまた懸念されるところである。
 国連子どもの権利委員会(CRC)は,2004(平成16)年1月30日,第2回政府報告書審査に基づく最終見解を公表した。その中で,同委員会は,わが国に対し,権利条約13条(表現の自由),14条(思想良心の自由,信教の自由)が完全に実施されるよう確保することを勧告しているが,この趣旨は今回の改正に当たっても十分に配慮されるべきである。
 加えて,更に懸念されることは,このような教育が,当然ながら可塑性に富み思想的抵抗力が十分に涵養されていない子どもを対象として実施されることである。仮にかかる教育が実施された場合,その影響の払拭には多大な困難を伴い,その意味で今回の改正の影響は甚大ということができる。
 以上のような事情を踏まえ,当会は,現在進められている中間報告をたたき台とした教育基本法改正法案に反対するとともに,同法の改正にあたっては,十分な準備期間を設け,憲法・条約との整合性について十分な検討を加えることを強く求めるものである。


平成16年10月15日
熊本県弁護士会
                   会 長  津留 清