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公正証書制度及び手形制度の濫用(悪用)の抑制を求める声明

2004.01.19
熊本県弁護士会 会長 塚本 侃


第1 声明の趣旨
 当会は,公正証書を濫用(悪用)した強制執行や,私製手形を濫用(悪用)した仮差押,手形訴訟の濫用の抑制を強く求める。

第2 声明の理由
1 一部の商工ローン業者において,利息制限法の制限利率を超過する利息を含んだ債務を強制的に返済させる目的のために,公正証書や約束手形の本来の機能を逸脱した用法によって,公正証書による強制執行や,私製約束手形による仮差押え,手形訴訟が頻繁に行われている。
 これらのことが放置されているため,多くの中小零細企業が倒産に追い込まれているだけではなく,その経営者や連帯保証人が自殺に追い込まれるという悲惨な結果を招いている。
2 公正証書は,公証人法第26条により,無効な内容のものを作成することができないため,利息制限法の制限金利の範囲内でのみ,その作成が許されることとなる。
 したがって,公正証書の強制執行受諾文言によって強制執行を申し立てる場合には,当然に利息制限法に基づく計算後の残額によって申立てがなされなければならない。
 ところが,一部の商工ローン業者は,公正証書によって,貸金業規制法第43条の「みなし弁済」を前提とした残額の差押えを行っており,なかには,利息制限法で計算すれば過払いとなっている場合にも差押えを行っている。
 このような行為は断じて許されることではなく,厳に自制されるべきである。
 裁判所においても,利息制限法を超過する金利で営業をしていることが明らかな貸金業者が公正証書に基づく強制執行の申立てをなした場合には,取引当初からの取引履歴を提出させ,利息制限法による引き直しを求めるなどの慎重な対応をなすべきである。
3 手形は,金銭支払いの手段として利用され,特に約束手形は信用利用の用具として用いられるものである。
 手形訴訟制度が,証拠制限をし,簡易・迅速に債務名義を取得させることとしているのは,手形の信用を高め流通を促進するために,その簡易・迅速な金銭化が強く要請されるからである。
 ところが,一部の商工ローン業者は,その決済により金員が支払われることを全く予定しておらず,かつ,第三者へ転々流通されることも全く予定されていない私製約束手形を振り出させ,これを用いて「みなし弁済」を前提とした残額の仮差押えをしたり,手形訴訟を提起して手形判決を得て差押えを行ったりしている。
 このような行為は,手形制度及び手形訴訟制度を濫用(悪用)したものというべきであり,業者は厳に自制すべきである。
 裁判所においても,このような仮差押えに対する判断は慎重になされるべきであり,手形訴訟については,既に,東京地裁においては上記のような私製手形による手形訴訟を受け付けない取り扱いをしていることを踏まえ,慎重な対応をすべきである。なお,平成15年11月17日,東京地裁民事第7部において,上記私製手形による訴えを,不適法として却下した判決(平成15年(手ワ)第168号,同第169号,同第180号)がくだされた。熊本地方裁判所においても、同様の取り扱いがなされるべきである。
4 また,今後,他の貸金業者等が,このような手法を模倣して同様に公正証書制度や手形制度を濫用(悪用)することがないように,早期に法改正が検討されるべきであると考えるものである。



以上