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個人情報保護法案に対する会長声明

2003.04.24
平成15年(2003年)4月24日


 政府は個人情報保護関連5法(行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案、個人情報の保護に関する法律案、独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律案、情報公開・個人情報保護審査会設置法案、同法案要綱)を今国会に提出し、現在衆議院の「個人情報の保護に関する特別委員会」で審議されている。
 これらの法案は昨年12月に廃案になり、今回改めて提出されているが、個人情報保護法案についてはメディア規制にならないように文言上の配慮をし、行政機関個人情報保護法案については公務員に対する罰則規定を若干強めてはいるが、なお個人情報の保護について看過できない重大な問題のある法案といわざるを得ない。
1.個人情報保護法案について
法案は、「個人情報取扱事業者」にさまざまな義務を課し、主務大臣が、 事業者の個人情報の取り扱いに問題があると認定したときには報告を徴収 し、必要があれば助言し、勧告、命令し、緊急な場合には違反行為中止等の 措置命令を課し、命令違反に対しては刑罰を課す構造となっている。
 そして、法案によると、ある者が「個人情報取扱業者」に該当するか否かは「取り扱う個人情報の量及び利用方法」により政令で定められることになっており、その定め方如何ではメディア、弁護士・弁護士会、NGOから団地自治会、同窓会、著述家の団体、労働組合、生活協同組合までもが、個人情報を悪用する名簿業者等と同列に扱われ、主務大臣が個人情報保護を口実に市民団体等の活動や弁護士・弁護士会の行動に干渉し、その情報収集、意見表明の妨げとなる危険性がある。
 そこで当面は、「個人情報取扱業者」に該当するか否かで一律に扱うのではなく、個人情報の侵害の危険性の高い金融、情報通信、医療などの分野についてだけ、その特性を考慮した上で、必要な限りで罰則を伴った分野別個別法の立法がなされるべきである。
2.行政機関個人情報保護法案について
  法案では、行政機関が必要に応じて広汎に国民の情報を収集・管理・統合 ・行政内部で流通させることに法的根拠を与える内容になっており、ほとん どの自治体の個人情報保護条例では規制されている思想、信条、病歴、犯罪 歴などの他人に知られたくないセンシティブ情報を規制しておらず、また、 行政機関には「相当な理由」という曖昧なかつ緩やかな基準で、しかも第三 者機関ではなく当該行政機関が自ら判断するという方法で目的外利用、他の 行政機関による利用を認めているのであって、住民基本台帳ネットワークシ ステムの住民票コードで識別管理されることにより、国民が行政の前に透明 化されてしまいかねない。
 そして、個人が、そもそも収集の許されない情報(思想・信条等)を収集されていないかをチェックしたり、誤った情報の訂正・削除を求めたりすることは個人の尊厳を保障するため当然必要不可欠であり、その為には、国の行政機関等が保有している個人情報についてはすべてファイル簿を作成し、公表することが求められるが、その様な規定は法案には設けられていない。 また、行政機関が保有する個人情報の訂正請求などに関する所轄大臣の決定に不服があった場合の訴訟についても、権利の実効性という観点からすれば、原告の住所地を管轄する地方裁判所に提訴できるという規定が必要であるにもかかわらず、法案には管轄に関する規定が設けられておらず、東京地方裁判所でしか訴訟が提起できないという事態が起きかねない。
そこで今般の法案について、当弁護士会としては、現在特別委員会による集中的な審議が進められているが、委員会において以上の点を十分審議検討されて政府案を修正されるよう強く期待する。
 

熊本県弁護士会 会長 塚本 侃