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公的付添人制度に関する意見書

2003.03.19
2003(平成15)年3月19日


 司法制度改革審議会意見書において、「積極的な検討が必要」とされた公的付添人制度に関する当会の意見は以下のとおりである。

1.熊本県における実情
  当会及び法律扶助協会熊本県支部では、10数年前から法律扶助による付添人制度を創設し、運用してきた。特に運用面においては、熊本家庭裁判所を通じてなされる扶助付添人選任依頼が制度運用における事実上の根幹であることから、熊本家庭裁判所との連携を重視し、毎年1回以上の協議会ないし意見交換会を開催し、また調査官を講師に招いての会内研修を開くなどして弁護士付添人の質の向上を図ってきたところである。
  こうした経緯から、熊本家庭裁判所のあつい信頼の下に、当初年間20件程度であった法律扶助による付添人(以下「扶助付添人」と言う)選任数が、この2年間を見ると、年間約120件にまで大幅に増加するに至っている。これらはほとんどが観護措置決定すなわち身柄拘束を受けたいわゆる身柄事件である。熊本県における身柄少年事件の数は、増減はあるものの年間200数十件程度であり、ほぼ半数に扶助付添人が選任された計算になる。
  また、扶助付添人に選任される弁護士の数も増えており、この3年間で1回でも扶助付添人に選任された当会会員は、約50名近くになる。扶助によらない私選付添人になったことのある弁護士まで含めれば、経験者の数はさらに増えることになる。当会会員数は、この3年間で110名強で推移しており、付添人を約半数が経験している計算になる。


2.付添人の必要性ないし有用性
  まず第1に、成人の刑事事件で認められている弁護人選任権に相当する権利として、付添人選任権が認められるべきである。成人よりも防御能力に劣る少年について、適正な法の適用を実現する前提として、弁護士によるサポートが認められるべきである。熊本県においても、当会の扶助付添人によって非行事実なしとの審判を受けたケースが出ており、その意味でも必要性は明らかである。なお、この点について、検察官関与との関連において議論される傾向があるが、成人の場合は起訴状一本主義による当事者主義が図られているのと異なり、少年事件では、一件記録が全て審判官のもとに送られる職権主義構造により、審判官が検察官役をも担う構造になっていることを考慮するなら、公的付添人制度実現に際して検察官関与を前提にすることは、むしろ公平とは言えない。
  第2に、成人の刑事弁護人の重要な役割の一つとして、被害者との示談交渉による適正な被害弁償を行うことがあげられるが、少年事件の場合も、同様の役割を付添人が行うことが期待される。当会の扶助付添人による示談交渉・被害弁償も、法的に適正な内容で行っているところである。これは、家庭裁判所調査官ではできないことであるとともに、被害者救済制度が不十分な現状においては、被害者保護の観点からも意義のあるものと言えよう。もちろん、通常は少年自身に資力がないこと、親の協力が必ずしも得られないことから、全ての事件で実現するものではないが、それは成人の刑事事件も同様であって、付添人の有用性を否定するものではない。
  第3に、いわゆる要保護性が問題となるケースにおける弁護士付添人の有用性についてであるが、これは、上記1で述べた熊本県における実情を見れば明らかである。すなわち、現在年間約120件の扶助付添人選任依頼が熊本家庭裁判所を通じてなされているところであるが、そのほとんどは要保護性が問題となるケースである。そうしたケースで付添人は、少年自身の反省を深めたり、家族にも反省を求めるなどして家族環境を整えたり、試験観察のフォローや、少年院送致後のフォローをする等、事件に応じた様々な活動をしている。こうした活動は、確かに家庭裁判所調査官の役割と重なる部分はあるが、必ずしも全く重なったり同質のものというわけではなく、社会に生起する様々な事件を解決することを通じて得られた弁護士の洞察力・問題解決能力に基づき、さらに少年事件特有の問題について日々積み重ねた研鑽の成果に裏打ちされたものである。このような調査官とは違う弁護士付添人の有用性が、家庭裁判所実務において認知されたからこそ、現在のような身柄事件の約半数に扶助付添人が選任されるという事態に至っているものと確信する。


3.公費による付添人の必要性
  国や社会は、次々と世代交代を経て行くものである。そこでは,健全な社会人が再生産されなければ、国家としての永続性は保ち得ないし、安心して暮らせる社会を維持することはできない。そういう意味でも、私たち大人は、次の世代を担う青少年を健全に育成する社会的責務があるものと考える。過ちを犯した者を切り捨てるのではなく、一人でも多くの少年たちが、健全な社会人になるべく立ち直ることをサポートすることこそ重要な政策課題となるべきである。そのために必要な人材と資金を投入することを躊躇すべきではない。法律扶助制度による付添人選任は、扶助の財源に限りがあるという限界性を常にはらんでいるところであり、これを公費によってまかなうことは、次の世代を健全に育成すべき国家として、むしろ当然の責務ではないだろうか。


4.弁護士の確保
  付添人の必要性、有用性については、弁護士会内において浸透しつつあり、当会会員の約半数が付添人経験者であることはこの事実を如実に物語っている。そして、当会程度の規模の単位弁護士会は、当会と同様の潜在能力を秘めているものと思われるところである。今後司法試験合格者が増加し、法曹人口が大幅に増えることが計画されていることに鑑み、付添人となる弁護士を確保して行くことは、十分に可能であると考える。


5.結 論
  以上のとおり、現行少年法に規定されている極めて限定的な公的付添人制度では不十分であり、観護措置決定を受けた少年の事件、否認事件、裁判所法26条2項2号の罪で家庭裁判所に送致された少年の事件及び家庭裁判所が必要と認めた事件について、公的付添人が選任される制度を創設すべきである。


以 上
熊本県弁護士会 会長 建部 明