熊弁の意見

  1. ホーム
  2. 熊弁の意見
  3. 民法(家族法)の差別的規定等の早期改正を求める会長声明

民法(家族法)の差別的規定等の早期改正を求める会長声明

2010.05.13
 選択的夫婦別姓や非嫡出子の相続分差別撤廃等に関する民法改正案は,1996年に法制審議会の答申が出されているにもかかわらず,14年が経過した現在に至っても,未だ法改正は実現していない。しかし,家族法部分に関する民法改正は,いまや喫緊の課題である。

現行の夫婦同姓制度のもと,婚姻に際し96%もの夫婦が夫の氏を選択しているという現状において,多くの女性が改姓を事実上強制され,社会生活上,職業上の不利益を被るだけでなく,精神的苦痛をも負わされている。女性の社会進出が進む中,自己のアイデンティティとしての氏を婚姻後も継続して使用したいという女性たちの希望は,氏名が人格権の一内容を構成すること(最高裁第二小法廷昭和63年2月16日判決)に鑑み,また憲法13条,24条等の趣旨からも,法制度上十分に尊重されなければならない。また,①夫婦の同姓を強制する国は,先進国においてはすでに日本のみとなっていること,②2006年の内閣府調査では,60歳未満の年齢層では男女とも選択的夫婦別姓制の導入に賛成する者が反対する者を上回ったこと,③2009年9月以後に複数の新聞社により実施された調査では,いずれも選択的夫婦別姓制の導入に賛成する者の数が反対する者の数を上回ったことなどから,すでに選択的夫婦別姓制の導入についての社会的な合意も形成されている。もはや,選択的夫婦別姓制の導入を躊躇う理由はどこにもない。

また,非嫡出子の相続分差別は,出生時に父母が婚姻しているか否かという子自身には変更不可能な事実をもって行われる差別であり,最高裁判所においても,憲法14条,24条2項との関係で非嫡出子の相続分差別撤廃を求める意見が繰り返し述べられている。また,このような差別をしないことが国際的にも趨勢になっており,早急に改正すべきである。

さらに,女性にのみ再婚禁止期間を課している規定についても,今日の科学技術の発達によって父性推定の衝突回避という立法事実はすでに失われており,早期に撤廃すべきである。婚姻年齢の統一についても,憲法14条及び24条2項から当然に要請されるところであり,早期に改正すべきである。

日本における民法(家族法)改正の遅れは,度々国連においても問題視され,1993年以来,日本政府は国連の各委員会から家族法の早期改正を行うよう繰り返し勧告を受けている。とりわけ2009年の女子差別撤廃委員会は,家族法改正を最優先課題と指摘し,2年以内の書面による詳細な報告を求め,再度早期改正を行うよう厳しく勧告している。

政権交代後の政府においても,千葉景子法務大臣は,選択的夫婦別姓制等を導入する民法改正案を2010年の通常国会に提出することを目指すと明言しており,法改正を待ち望んだ国民の期待はいっそう大きくなっている。

当会は,選択的夫婦別姓制の導入や非嫡出子の相続分差別撤廃等をはじめとする民法(家族法)の差別的規定等の改正が早期に今国会に提出され,速やかに審議成立することを強く求めるものである。

2010年5月13日
熊本県弁護士会
会長 高木絹子