足利事件を契機として,改めて,取調べの可視化(全過程の録画・録音)の 実現を求める会長声明
2009.07.28
1 東京高等検察庁検察官は,2009年(平成21年)6月4日,いわゆる足利事件で無期懲役が確定し,千葉刑務所に服役していた菅家利和氏について,刑事訴訟法442条ただし書の規定に基づき執行停止措置をとり,これによって,菅家氏は身柄を釈放されるに至った。
さらに,東京高等裁判所は,同月23日,菅家氏に対する再審を開始する決定を下した。
2 菅家氏は,釈放後の記者会見において,虚偽の自白をした経過について,警察官から,髪の毛を引っ張られたり,足で蹴飛ばされたり,体を揺すられたりしながら,「白状しろ,お前がやっているのは分かっている。」「お前がやったんだから早く喋って楽になれ。」などと言われ,どうにもならなくなって自白をしたなどと述べており,密室における虚偽自白の獲得が冤罪に繋がったことが端的に語られている。
また,熊本の地において惹起された冤罪事件(免田事件)の免田栄氏も,「最初からアリバイを主張したが認めてくれなかった。(警察の方で)一つの筋をつくって,それに応じなければ殴る,けるといった暴力になる。寝せずに,食事を与えないで・・・。何べん言っても調べてくれないし,悔しい思いだった。『ウン』と認めたときは錯乱状態だった」とマスコミのインタビューで語っており(熊本日日新聞社「冤罪免田事件」),共通した虚偽自白の獲得過程が浮かび上がっている。
3 当会は,2008年(平成20年)7月22日,取調べの可視化(全過程の録画・録音)の実現を求める会長声明を発出し, 国に対し,違法不当な取調べや虚偽自白による冤罪を防止し,裁判員裁判の円滑な実施を可能にするためにも,速やかに,全ての被疑者について取調べの可視化(取調べの全過程の録画・録音)を義務づけるとともに,これを欠くときは取調べの結果録取された供述調書の証拠能力を否定する立法措置を講じることを強く求めたところである。
4 その後の2009年(平成21年)4月3日,取調べの可視化等を内容とする刑事訴訟法の一部を改正する法律案が,参議院に提出され,同月24日,同院で可決され,衆議院へ付託されたが,同年7月21日の衆議院解散によって,同案は廃案となった。
これまでの足利事件に至る冤罪事件を振り返るときには,密室における自白獲得という捜査手法が冤罪の温床となっていることは明らかであって,上記法律案は十分な立法事実に立脚するものといえる。
5 当会は,裁判員制度がスタートしたことも踏まえ,改めて,国に対し,速やかに,全ての被疑者について取調べの可視化(取調べの全過程の録画・録音)を義務づける等の立法措置を速やかに講じることを強く求めるものである。
平成21年7月28日
熊本県弁護士会
会長 成瀨 公博