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非司法競売手続の導入に反対する会長声明

2008.05.01
現在、法務省において、裁判所が関与しない不動産競売手続(以下、「非司法競売」という)の導入が検討され、さらに、昨年12月に内閣府に設置された規制改革会議においてアメリカの民間競売制度を参考とした非司法競売手続の積極的導入を図る答申がなされた。しかしながら、非司法競売手続を導入しなければならない必要性は全く存在せず、非司法競売手続自体に看過できない問題点があるため、その導入に強く反対するものである。

 わが国の不動産競売制度は、裁判所の関与の下、現況調査報告書・評価書・物件明細書といういわゆる三点セットが作成されることにより、買受希望者への十分な情報提供がなされ、その結果として、不当な執行妨害を排除し、透明かつ迅速な手続を実現するに至っている。現に、平成18年度には、不動産競売事件の約4分の3は申立から半年以内に売却実施処分に付されており、売却率も全国で80パーセントを超えている。このように、現行の不動産競売制度は、適正、透明かつ迅速な手続が確立し、円滑に機能しているのであって、敢えて非司法競売手続を導入しなければならない立法事実は存在しない。

 また、現在検討されている案では、融資時に予め債権者、債務者、所有者間で競売の実行方法を取り決めることを考えているが、融資時の債権者と債務者及び所有者との力関係からすれば、そこにおける合意は債務者と債権者の自由意思を反映したものとは認められず、手続の適正を担保することはできない。 さらに、非司法競売手続では、上記の三点セットも作成されず、売却価格の下限規制も設けないとされており、そうなると、担保物件についての的確な情報が得られない一般買受希望者が競売に参加することは著しく困難になり、結局、一部の悪質金融や不動産ブローカーらが横行する以前の状況が復活するとともに、担保物件が廉価で売却される可能性が高まり、残債務の支払義務を負う債務者や保証人に多大な不利益を及ぼすことになる。

 以上のとおり、非司法競売手続は、導入する必要性は全くなく、逆に、わが国が課題としてきた開かれた公正な競売制度の理念に逆行するものであるからその導入に強く反対するものである。