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死刑執行に関する会長声明

2008.03.12
熊本県弁護士会 会長  三藤省三

1 本年2月1日、福岡拘置所、大阪拘置所及び東京拘置所において各1名、合計3名の死刑確定者に対して死刑が執行された。今回の執行は、昨年12月の死刑執行から僅か2か月足らずの間に更なる執行がなされたものである。このような相次ぐ死刑の執行は、積極的に死刑を執行していこうという政府の姿勢を示したものというべきであり、誠に遺憾である。

2 私たちの社会は、免田・財田川・松山・島田各事件という4つの死刑確定事件について再審無罪判決が確定し、死刑判決においても誤判を犯してしまったという経験を持っている。そうであるにもかかわらず、このような誤判を生じるに至った制度上・運用上の問題点については、未だ抜本的な改善が図られていない。死刑事件についての誤判の危険性は、今もなお存在するのである。
また、死刑と無期刑の量刑につき、裁判所によって判断の分かれる事例が相次いで生じている。このような判断のぶれは、死刑についての確固とした明確な基準が存在しないことを明らかにしているのである。
  さらに、我が国の死刑確定者は、国際人権(自由権)規約、国連決議に違反した状態におかれている。特に面会・通信の過剰な制限は、死刑確定者の再審請求、恩赦出願などの権利行使の大きな妨げとなっており、看過できない。今般、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律の施行により、実務の改善が期待されているものの、いまだに死刑確定者と再審弁護人との接見に立会いが付されるなど、死刑確定者の権利行使が十全に保障されているとは言いがたい状況である。
以上のような状況下において、直ちに死刑を執行してしまうことには重大な問題がある。

3 国際的にも、死刑廃止条約が1989年12月15日の国連総会で採択され(1991年発効)、1997年4月以降毎年、国連人権委員会(2006年国連人権理事会に改組)が「死刑廃止に関する決議」を行うなど、死刑に対する慎重な姿勢は国際的な潮流となっている。
  また、昨年5月18日に示された国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告においては、我が国の死刑制度がはらんでいる多くの問題が端的に指摘された上で、死刑の執行を速やかに停止するべきことなどが勧告された。
さらに、昨年12月18日には、国連総会本会議において、すべての死刑存置国に対して死刑執行の停止を求める決議が採択されたところである。

4 我が国においては、現在、死刑制度に対する国民的議論が十分に尽くされたとはいいがたい状態にある。今後、とりわけ2009年から開始される裁判員制度においては、裁判員も死刑を含む量刑判断に関与することになっている。死刑制度及びその運用について国民的な議論が必要とされるところである。
  このような議論が必要とされている最中に、あたかもベルトコンベアに載せるが如くに次々と死刑執行を行うことは、余りに拙速にすぎると言わざるをえない。

5 当会は、今回の死刑執行に遺憾の意を表明するとともに、政府に対し、死刑制度の存廃、運用について国民的議論が尽くされるまでの一定期間、死刑の執行を停止することを強く求めるものである。