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少年法「改正」法案に反対する会長声明

2008.03.11
熊本県弁護士会 会長  三藤省三

1 法制審議会は,本年2月13日,少年法「改正」案を採択し、さらに3月7日少年法「改正」案が閣議決定された。

この「改正」案は,【1】犯罪被害者等の少年審判の傍聴規定を新設するとともに,【2】犯罪被害者等による記録の閲覧・謄写の要件を緩和している。
当会においては,平成19年12月27日に「犯罪被害者等による少年審判の傍聴」に関する会長声明を出しているが,「改正」案は以下の点で問題であり,あらためてその法案化に強く反対の意思を表明する。

2 【1】について
  「改正」案は,犯罪被害者等による審判傍聴を許す家庭裁判所の判断基準を「少年の年齢及び心身の状態,事件の性質,審判の状況その他の事情を考慮して相当と認めるとき」としている。これでは,少年の更生の観点から相当とはいえない場合にまで犯罪被害者等の審判傍聴を許すという運用になりかねず,問題である。
そもそも,少年審判は,懇切を旨として,和やかに行うとともに,少年に自己の非行について内省を促すものとしなければならない(少年法22条第1項)。
被害者等による審判傍聴を安易に認めると,少年が萎縮してしまい,少年審判の内容が表面的に現れた事情だけに基づく形式的なものになりかねず,少年法が求める少年審判を実現できなくなるおそれが高い。
また,被害者等の少年審判傍聴については,少年審判規則29条が認める範囲で行えば十分といえる。
さらに,本年3月4日には,被害者親族が,刑事法廷閉廷後,法廷内において,少年に対して回し蹴りをしたという事件も発生しており,刑事法廷よりも狭く,事件発生から間もない期間に行われる少年審判法廷において,被害者等が傍聴することは,保安上からみても問題がある。

3 【2】について
  「改正」案は,犯罪被害者等に対し,「家庭裁判所が専ら当該少年の保護の必要性を判断するために収集したもの及び家庭裁判所調査官が家庭裁判所による当該少年の保護の必要性の判断に資するよう作成し又は収集したものを除く」保護事件の記録の閲覧・謄写を認めている。これには法律記録の少年の身上経歴などプライバシーに関する部分も含まれているため,少年のプライバシーが害されるおそれがある。また,社会記録には,少年の生育歴を中心に少年やその家族等のプライバシーに関する情報が多く含まれているため,これを閲覧・謄写の対象にすべきではないことはもちろんである。
さらに,犯罪被害者等に対する記録の閲覧・謄写の要件を安易に緩和することは,裁判所が適切な処分決定をするために必要な情報を収集することを困難にするおそれもある。

4 当会は,以上のような問題点を踏まえ,当該要綱の内容の内【1】【2】を法案化することについて強く反対の意思を表明するとともに、同法案については国会における廃案を求めるものである。