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発達障害がある被告人による実姉刺殺事件の大阪地裁判決を受けて、 発達障害がある人への正しい理解と社会的支援の充実を求める会長声明

2012.09.18
 2012年(平成24年)7月30日、大阪地方裁判所は、発達障害がある男性が実姉を刺殺した殺人被告事件の裁判員裁判において、検察官の求刑(懲役16年)を超える懲役20年の判決を言い渡した。

 本判決は、「本件犯行の動機の形成に関して、被告人にアスペルガー症候群という精神障害が認められることが影響していることは認められる」、「被告人が十分に反省する態度を示すことができないことにはアスペルガー症候群の影響があり、通常人と同様の倫理的非難を加えることはできない」などと認定しながら、「いかに病気の影響があるとはいえ、十分な反省のないまま被告人が社会に復帰すれば、・・・被告人が本件と同様の犯行に及ぶことが心配される」、「社会内で被告人のアスペルガー症候群という精神障害に対応できる受け皿が何ら用意されていないし、その見込みもないという現状の下では、再犯のおそれが更に強く心配される」、「被告人に対しては、許される限り長期間刑務所に収容することで内省を深めさせる必要があり、そうすることが、社会秩序の維持にも資する」として、「殺人罪の有期懲役刑の上限で処すべきである」と判示した。

しかし、本判決のように、アスペルガー症候群などの発達障害の影響により十分に反省する態度を示すことができない被告人を十分な反省がないとして、また、社会内に発達障害に対応できる受け皿がないとして、被告人の再犯のおそれを強く認めるのであれば、発達障害がある人への偏見が助長されかねない。また、社会秩序の維持のために発達障害がある被告人を許される限り長期間刑務所に収容すべきという発想は、発達障害がある人を許される限り社会から隔離すべきという発想につながりかねない。

現在、社会に求められていることは、発達障害がある人への偏見を助長することでも発達障害がある人を社会から隔離することでもなく、発達障害がある人への正しい理解と社会的支援の充実である。2005年(平成17年)に施行された発達障害者支援法は、発達障害者の福祉について理解を深めるよう努めることを国民の責務とし、発達障害者に対する医療的、福祉的及び教育的援助を行うことを国及び地方公共団体の責務としているところである。

 以上の理由から、当会は、本判決における重大な問題点を指摘するとともに、発達障害がある人が正しく理解されること及び発達障害がある人に対する社会的支援がより充実したものになることを強く求めるものである。

熊本県弁護士会    
会長 坂本秀德