改正貸金業法完全施行2年を迎えての会長声明
深刻化した多重債務問題の解決のために,上限金利引下げ・総量規制を柱とした改正貸金業法が平成22年6月18日に施行されてから,2年が経過した。
借入件数5件以上の多重債務者の数は,法改正時の230万人から平成24年3月時点で44万人まで減少し,平成18年には年間約17万人であった自己破産者の数が平成23年には年間約10万人まで減少した。また,多重債務を理由とする自殺者も平成19年の1973人が平成23年には998人と半減しており,同改正は多重債務対策として目に見える大きな成果をあげている。
にもかかわらず,現在,一部の国会議員の間では,総量規制により正規の業者から借りられない人がヤミ金に流れ被害が広がっているとか,零細な中小企業の短期融資の需要があるなどとして,金利規制や総量規制の見直しの議論が起こっている。
しかし,平成22年11月に行われた金融庁の委託調査によれば,3年以内に借入を経験した者のうち,希望する借入れができなかった際ヤミ金を利用したのは僅か0.3パーセントに過ぎない。弁護士会におけるヤミ金の相談件数も,警察によるヤミ金の検挙件数も減少しており,ヤミ金被害が広がっているとする根拠は何ら認められない。そもそも,ヤミ金は犯罪行為なのであるから,その撲滅は徹底した取締りによって目指すのが本来である。
また,経済的にひっ迫している者に高利貸付けをしても,その者の生活や事業が破綻するだけであり,有効な救済策とはならない。資金の需要については,セーフティネットや低利融資制度の拡充,事業者であれば総合的な経営支援策の拡充こそが必要かつ有効な対策となる。
以上のように,一部の国会議員の唱える貸金業法見直しの根拠は,いずれも事実の基礎を欠き,当を得ないものである。
熊本県においては,消費者向けセーフティネット貸付を含む「多重債務者生活再生支援事業」により,単に貸付を行うだけではなく,返済終了まで親身な生活再生支援を行うという顔の見える融資が実施され,多重債務に陥っている県民の生活再生支援が図られ大きな成果をあげている。多重債務問題の解決は,このようなセーフティネットの拡充等により実現されるものであり,金利規制や総量規制の緩和により問題が解決されるものでは決してない。
当会は,改正貸金業法の完全施行を改めて評価し,貸金業法の規制緩和の動きに強く反対する。当会は,改正貸金業法の成果をより充実させるため,法律相談体制の充実等にさらに力を尽くし,改正貸金業法において残された多くの課題にも積極的に取り組んでいくことをここに表明する。
熊本県弁護士会
会長 坂 本 秀 德