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全面的国選付添人制度の実現を求める決議

2011.03.10
 当会は、現行の国選付添人制度を拡充し、少年鑑別所送致の観護措置決定により身体拘束された全ての少年について、家庭裁判所が必要と認めた場合または少年若しくは保護者から請求があった場合には、家庭裁判所が弁護士である付添人を付する制度とするよう速やかに少年法を改正することを強く求める。

以上のとおり決議する。
  
(  提案理由  )
 弁護士は、少年審判手続において「付添人」という立場で、少年に対して必要な法的、社会的援助を行ない、少年の立ち直りを総合的に支援する活動を行なっている。
 少年審判手続における弁護士付添人の必要性ないし有用性は、主に以下の3点において認められる。
 第1に、非行事実に争いがある事件や保護処分の必要性に争いのある事件において、弁護士付添人が、非行事実の適正な認定や保護処分が適切になされるよう審判手続に関与する必要がある。
 特に成人に比べて防御能力の劣る少年について、非行事実の適正な認定を実現するためには、弁護士付添人が審判手続に関与することが極めて重要であり、これによって少年を冤罪から守ることができる。
 第2に、示談交渉や被害弁償が必要な事件において、弁護士付添人は、少年やその保護者と被害者との間に立って、示談交渉や被害弁償を行なうという役割を果たすことができる。
 これらの役割は、家庭裁判所調査官にはできないことであり、また被害者保護の観点からも意義のあるものということができる。
 もちろん、一般に少年の資力が乏しいことや保護者の協力が必ずしも得られない場合もあるため、全ての事件において示談交渉や被害弁償が実現するとはいえないが、それは成人の刑事事件の場合も同様であって、付添人の有用性を否定するものではない。
 第3に、いわゆる要保護性が問題となる事件において、弁護士付添人は、少年との面会を通じて内省を深めさせるとともに、少年と保護者との関係を調整して家庭環境を整え、さらに学校や職場にも少年の社会復帰後の受け入れを働きかけるなど、少年が立ち直るために必要かつ有用な活動を広範に行なうことができる。
 少年審判を受ける少年の多くは、味方となってくれる大人と出会うことがないまま非行に至ることも少なくないが、弁護士付添人は、まさに少年に付き添って立ち直りを手助けする存在である。
このように少年の立ち直りにとって、弁護士付添人には必要性ないし有用性が認められるにもかかわらず、実際に少年審判手続において弁護士付添人が選任される例は少ない。
 平成20年統計によると、弁護士付添人の選任率は、少年鑑別所に収容され身体拘束を受けた少年の約40%、少年審判を受けた少年全体では約8.5%に過ぎない。
 他方、成人の刑事事件では、約98.7%の被告人に弁護人が選任されていることと比較すれば、少年に対する法的援助が不十分な現状が認められる。
 また、一般に少年の資力が乏しいことからすれば、少年に対する法的援助の必要性が成人の場合以上に高いことは当然といえる。
さらに、平成21年5月からは、被疑者国選弁護事件の対象が必要的弁護事件の範囲にまで拡大されたが、国選付添人事件の対象範囲は拡大されず一定の重大事件などに限定されたままであった。
その結果、成人については、捜査段階から刑事裁判までを通じて国選弁護人による援助を広く受けられるようになったが、少年については、捜査段階では国選弁護人が選任されていたが、家庭裁判所送致後には国選付添人が選任されないという事態が生じうることになり、いわば「少年が置き去りにされている」という制度上の矛盾が一層明らかとなった。
わが国が批准している児童の権利に関する条約の第37条(d)は、「自由を奪われたすべての児童は、・・・弁護人その他適当な援助を行なう者と速やかに接触する権利を有する」と定めていることに照らせば、少年が弁護士付添人による十分な法的援助を受けられる制度を整備、拡充することは国の責務であるといえる。
当会においては、平成18年から当番付添人制度を導入し、少年鑑別所に収容された少年が弁護士との面会を希望した場合には、速やかに弁護士が少年との面会に赴き、その結果、多くの少年が弁護士を付添人として選任することができる制度を設けることによって、少年の立ち直りのために多くの成果を上げてきた。
また日本弁護士連合会は、少年に対する法的援助を保障する観点から、全会員の特別会費による少年保護事件付添援助制度を設け、国選付添人の対象とならない少年にも私選付添人費用を援助してきた。
しかしながら、弁護士付添人の活動の重要性や少年に対する法的援助制度の整備が国の責務であることに鑑みれば、弁護士会費によって支えられている現在の少年付添援助制度は暫定的なものに過ぎず、少年に対する法的援助は国費で行なうべきものである。
よって当会は、上記のとおり、速やかな法改正を求めるものである。


以上

平成23年3月3日

熊本県弁護士会
会 長  高木絹子