熊弁の意見

  1. ホーム
  2. 熊弁の意見
  3. 生活保護基準の引き下げに反対する意見書

生活保護基準の引き下げに反対する意見書

2012.12.05


第1 意見の趣旨
  当会は、生活保護基準の引き下げに対して、断固として反対する。

第2 意見の理由
1 平成24年8月17日になされた「平成25年度予算の概算要求組替え基準について」の閣議決定、厚生労働省が平成24年7月5日に発表した社会保障審議会生活保護基準部会の「『生活支援戦略』中間まとめ」、平成24年10月22日に開かれた財政制度等審議会財政制度分科会での生活保護の支給額見直しについての議論という一連の行政の動きは、いずれも、生活保護基準の引き下げが、来年度の予算編成過程で実現化する強い可能性を示している。
2 言うまでもなく、生活保護基準は、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」、我が国における生存権保障の水準を決する極めて重要な基準である。さらに、生活保護基準は、地方税の非課税基準、介護保険料の保険料・利用料や障害者自立支援法による利用料の減額基準、就学援助の給付対象基準、法律扶助の償還の猶予・免除の要件など多様な施策の適用基準にも連動している。即ち、生活保護基準の引下げは、現に生活保護を利用している人たちの生活レベルを低下させるだけでなく、市民生活全体に大きな影響を与えることとなる。
 確かに、憲法25条に根拠を有する社会保障の実現には予算的配慮が欠かせず、そのため、社会保障の実現過程に一定の行政裁量が認められることもまたやむを得ないところではある。
 しかしながら、行政裁量にも、当然、限界がある。健康で文化的な最低限度の生活を脅かすような安易な保護基準の引き下げは行政裁量の濫用であって、到底認められるものではない。
3 保護基準の見直しの契機となったのは、生活保護基準の下回る低所得者層の存在である。しかしながら、平成22年4月9日付厚生労働省社会・援護局保護課作成の「生活保護基準未満の低所得世帯数の推計について」によれば、生活保護補足率(生活保護利用資格があって現に生活保護を受給している世帯の割合)は2~3割程度とされ、生活保護を利用できるのに利用していない低所得者世帯が非常に多く存在することが判明した。このような現状において、生活保護基準を下回る低所得者層の存在を解消する最も適切な方法が生活保護補足率の上昇であることは明らかであり、保護基準の引き下げによって解決しようとすることは、本末転倒というほかない。
4 経済状況や雇用状況が世界的に厳しさを極め、かつ、超高齢化社会となった我が国において、生活保護は、国民の「命」を守る最後のセーフティネット、最後の砦である。平成22年度の熊本県の生活保護世帯のうち、46.1%を高齢者世帯が占め、稼働年齢層を中心とする世帯が13.1%と上昇傾向にあるという結果も、生活保護が、現代社会における命の最後の砦であることを実証している。
5 よって、当会は、生活保護基準を引き下げることに、断固として反対するものである。


平成24年12月5日
熊本県弁護士会 会長 坂本 秀德