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地方法科大学院に対する支援を求める会長声明

2012.12.06

法科大学院制度の創設から約8年半が経過し、新司法試験も第6回目を数えた現在、新しい法曹養成制度は解決すべき様々な課題に直面している。特に、司法試験合格率の低迷と法科大学院への入学志願者の減少が地方の小規模法科大学院に与える影響は甚大であり、文部科学省の方針により、翌年度の運営費交付金を削減する方針を決定された地方法科大学院も存在する。
 しかし、各地ほ地方法科大学院は、家族を含めた生活を維持するという家庭の事情や経済的理由等で地域を離れることができない法曹志望者にとって、法曹となるためのプロセスとしての教育を受ける機会を提供し、かつ、司法試験の受験資格を得ることのできる唯一の機関である。
 司法制度は「社会のインフラ」であり、同インフラをさせる法曹には一定水準のスキルが求められている。法科大学院は、この一定水準のスキルを獲得する最初の施設であり、中でも地方法科大学院は、各地方の法曹志望者のうちの「その存在する地方において」法曹となるための教育を受けることを希望する者に対して、その希望を叶えることができる唯一の機関である。
 そして、熊本大学法科大学院法曹養成研究科(熊本大学法科大学院)は、熊本県在住者はもとより、鹿児島県、宮崎県、長崎県などの隣県からも多様な人材を受け入れ、九州地区の中心に位置する法科大学院として、九州地区在住の法曹志望者に対し、法曹となるための教育を受ける機会を提供してきた。
 その結果熊本県唯一の法科大学院である熊本大学法科大学院の卒業者で司法修習を終了した者の進路は、約55%の者が熊本県内の法律事務所に弁護士として就職し、九州内の法律事務所に就職した者の割合は、合計約87%に達している。
 さらには、地方法科大学院と地方の弁護士会との協力体制を基盤として、既に法曹となったものに対するスキルアップの場を提供することも地方法科大学院の重要な機能である。
 以上のとおり、地方法科大学院が各地方における司法制度という「社会のインフラ」を支える重要な不可欠の役目を担っていることは明らかである。
 ところで、熊本県唯一の法科大学院である熊本大学法科大学院は、運営費交付金の削減という事態には至っていないものの、他の法科大学院と同様に、厳しい状況に置かれていることに変わりがない。
 当会も、熊本大学法科大学院に対し、会員を専任教員や講師として派遣し、また多数の若手会員を学生に対する学習指導に当たらせるなどの様々な支援を行っている。
 上記のとおり、熊本大学法科大学院をはじめとする地方法科大学院は、大都市圏の法科大学院とは異なる、独自の社会的意義を有しているのである。従って、全国の法科大学院に対する公的支援を検討するに当たり、法科大学院の「地域適正配置」という観点を軽視することが許されてはならない。
 しかし、文部科学省の補助金の運営や、法曹養成制度検討会議等の議論の状況を見ると、必ずしも法科大学院の地域適正配置の理念が重視されているとは言い難く、このままでは、地方在住の法曹志望者の進路を閉ざし、法曹志望者のさらなる減少をもたらし、ひいては司法制度改革そのものの理念に悖る事態となることを、当会は強く危惧するものである。
 よって、当会は、政府に対し、法曹養成制度の在り方を検討する前提として、法科大学院の地域適正配置の理念を重視すること及び地域適正配置の理念に照らし存続が必要とされる地方法科大学院に対する国立大学法人運営費交付金又は私立大学等経費補助金を削除しないことを求めるとともに、日弁連に対し、地方法科大学院に対する総合的な支援制度(実務家教員の人件費に対する補助金の交付、研究者教員の確保の支援、寄付講座の実施など)の創設について検討を開始することを求める。

2012(平成24)年12月6日
熊本県弁護士会
会長 坂本 秀德