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憲法第96条の憲法改正発議要件の緩和に反対する決議

2013.05.29

第1 決議の趣旨
 当会は、憲法第96条を改正して発議要件を緩和することに強く反対する。

第2 決議の理由
1 ?憲法第96条の定めと同条改正の動き
日本国憲法第96条は、「この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。」と定める。
自由民主党は、昨年4月27日、日本国憲法改正草案を発表し、第96条の改正規定を、衆参各院の総議員の過半数で発議できるように変更しようとしている。日本維新の会も、第96条の憲法改正発議要件の緩和を提案している。
昨年12月16日に行われた衆議院議員総選挙の結果、自由民主党と日本維新の会、みんなの党が合計366議席となり、衆議院では、憲法改正を主張する3党で「総議員の三分の二以上」を占めることとなった。

2 ?国会の発議要件が「総議員の三分の二以上」とされた理由
憲法は、基本的人権を守るために国家権力の組織を定め、たとえ民主的に選ばれた国家権力であっても権力が濫用されるおそれがあるので、その濫用を防止するために国家権力に縛りをかける国の基本法である(立憲主義)。
すなわち、憲法第11条は「この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。」とし、憲法第97条は「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。」とする。この基本的人権の尊重こそが憲法の最高法規性を実質的に裏付けるものであり、この条項に引き続く憲法第98条は「この憲法は、国の最高法規であって」と、憲法の最高法規性を宣言し、憲法第81条で裁判所に違憲立法審査権を与えている。憲法第96条の改正規定は、これらの条項と一体のものとして、憲法保障の重要な役割を担うものである。
そのため、憲法が改正される場合には、国会での審議においても、国民相互間の議論においても、充実した慎重な議論が尽くされた上で改正がなされるべきことが求められ、法律制定より厳しい要件が定められたのである。
もし、充実した十分慎重な議論が尽くされないままに簡単に憲法が改正されるとすれば、国の基本法が安易に変更され、基本的人権の保障が形骸化されるおそれがある。国の基本法である憲法をその時々の支配層の便宜などのために安易に改正することは、それが国民の基本的人権保障や我が国の統治体制に関わるだけに、絶対に避けなければならない。
発議要件を3分の2以上から過半数にすると、憲法改正の発議はきわめて容易となる。議会の過半数を握った政権与党は、立憲主義の観点から縛りをかけられている立場にあるにもかかわらず、その縛りを解くために簡単に憲法改正案を発議することができることとなり、立憲主義が大きく後退してしまう危険が大きい。

3 ?結論
以上のとおり、日本国憲法第96条について提案されている改正案は、国の基本的な在り方を不安定にし、立憲主義と基本的人権尊重の立場に反するものとして極めて問題であり、許されないものと言わなければならない。

当会は、憲法改正の発議要件を緩和しようとする憲法第96条改正提案に対して、強く反対するものである。

以上 

平成25(2013)年5月28日

熊本県弁護士会