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生活保護の利用を妨げる「生活保護法の一部を改正する法律案」の廃案を求める会長声明

2013.06.12

1 政府は、本年5月17日、生活保護法の一部を改正する法律案(以下「改正案」という。)を閣議決定した。

  しかしながら、改正案には、①違法な「水際作戦」を合法化する、②保護申請を一層萎縮させる、という重大な問題点がある。

2 まず、現行生活保護法(以下「現行法」という。)は、保護の申請について書面を要求しておらず、口頭による保護申請も認められるとする確立した裁判例があり、また、実務の運用においても、申請の際に、要否判定に必要な書類の提出も義務付けてはいない。
 しかし、実際には、福祉事務所の窓口において、要保護者が生活保護の申請意思を表明しても申請書を交付しなかったり、疎明資料の提出を求めて申請書の受理を拒否するという違法な運用(いわゆる「水際作戦」)が少なからず見受けられる。
 改正案24条1項は、保護の開始の申請は、「要保護者の資産及び収入の状況」その他「厚生労働省令で定める事項」を記載した申請書を提出しなければならないとし、同条2項は、申請書には保護の要否判定に必要な「厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない」とし、要否判定に必要な書類の添付までも必須の要件とする。
 しかしながら、このような改正がなされると、添付書類の不備等を理由として申請を受け付けない取り扱いが合法的に行われることになり、これまで違法とされてきた「水際作戦」が合法化されることになる。
 なお、本年6月4日に衆議院本会議で可決された修正案では「特別の事情があるとき」には例外的に口頭での申請等を認めることとしたが、違法な「水際作戦」を合法化する点において、修正前の改正案と本質的には何ら変わりはないものである。

3 次に、改正案第24条8項は、保護の実施機関に対し、保護開始の決定をしようとするときは、あらかじめ、扶養義務者に対して、厚生労働省令で定める事項を通知することを義務付けており、さらに、改正案第28条2項は、保護の実施機関が、保護の決定等にあたって、扶養義務者等に対して報告を求めることができるとしている。
 しかし、現行法下においても、保護開始申請を行おうとする者が、両親や子、兄弟などの扶養義務者への通知によって生じるあつれきやスティグマ(恥の烙印)等を恐れて申請を断念する場合は少なくない。このように扶養義務者への通知には保護申請に対する萎縮的効果があり、改正案によって扶養義務者に対する通知が義務化されることになると、保護申請に対して一層の萎縮的効果を及ぼすことは明らかである。

4 なお、国連の社会権規約委員会は、本年5月17日、日本政府に対する勧告で「生活保護の申請手続を簡素化し、かつ申請者が尊厳をもって扱われることを確保するための措置をとるよう、締約国に対して求める。委員会はまた、生活保護につきまとうスティグマを解消する目的で、締約国が住民の教育を行なうよう勧告する。」としており、今般の改正案は、この勧告を無視するものであって、この意味でも到底是認できるものではない。

5 以上のとおり、今般の改正案は、「水際作戦」を合法化するものであり、一層の萎縮的効果を及ぼすことにより、客観的には生活保護の利用要件を満たしているにもかかわらず、これを利用することのできない者が続出し、多数の自殺・餓死・孤立死等の悲劇を招くおそれがある。これは我が国における生存権保障(憲法25条)を空文化させるものであって到底容認できない。
 よって、当会は、改正案の廃案を強く求めるものである。

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平成25(2013)年6月11日 

熊本県弁護士会 会長 衛藤 二男