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熊本大学法科大学院を支援する会長声明

2013.08.08

1 本年7月16日、政府の法曹養成制度関係閣僚会議は、司法試験の合格率が低い法科大学院の統廃合を進めることなどを柱とした本年6月の法曹養成制度検討会議(以下、「検討会議」という。)の最終提言を政府の方針として決定した。
 検討会議は、課題を抱える法科大学院の自主的な組織見直しを促進するためにも、現在、文部科学省が実施している司法試験合格率や入学競争倍率等による公的支援の見直しの方策を更に強化すべきであるとし、さらに、自主的な組織見直しを促進するための方策を強化しても一定期間内に組織見直しが進まない場合、課題が深刻で改善の見込みがない法科大学院については、新たに法的措置を設けることについても検討する必要があるとしている。
 このような検討会議の方針は、都市部の大規模な法科大学院に比して入学志願者や司法試験合格率の確保が困難な地方の法科大学院に対してとりわけ大きな圧力となっており、地方法科大学院については、「統廃合」が極めて強力に迫られているのが現状である。実際に、地方法科大学院の中には、学生の募集を停止したところもあり、本年6月には、山陰地方で唯一の法科大学院である山陰法科大学院が、国立大学としては初めて、(同大学院単体としての)学生の募集停止を決定している。
2 しかしながら、法の支配をあまねく実現するためには、各地の様々な分野から法曹を生み出すことが重要であり、そのためには、法科大学院を全国に適正配置し、地方在住者がその地域で教育を受けて法曹になる機会を実質的に保障することが不可欠である。そして、地方法科大学院の存在が地元志望者の経済的負担を大きく軽減させるだけでなく、司法過疎の解消、地域司法の充実・発展に貢献し、さらには、地方自治・地方分権を支える人材を育成するという観点からも重要な役割を担っていることからすれば、法科大学院の「統廃合」は、地域適正配置の理念を踏まえつつ実施される必要がある。
3 熊本県唯一の法科大学院である熊本大学法科大学院(熊本大学大学院法曹養成研究科)は、熊本県内はもとより、鹿児島県、宮崎県などの隣県からも多様な人材を受け入れ、九州地区の中心に位置する法科大学院として、九州地区内の法曹志望者に対し、法曹となるための教育を受ける機会を提供してきており、平成24年度までに合計32名の司法試験合格者を輩出している。そして、このうち九州地区内で弁護士登録をした者は約87%(うち約55%が熊本県内の法律事務所、残り約32%が熊本県外の法律事務所に就職)であり、着実に地域司法の充実・発展に寄与している。さらに、同法科大学院の卒業生のなかには、地元の自治体や企業に就職する者もあり、地域社会にリーガルマインドを備えた人材を提供する役割も果たしているのである。
4 熊本県弁護士会は、熊本大学法科大学院との定期協議、教員の派遣、弁護士による法律文書作成指導及び学生の自主学習支援等、これまで熊本大学法科大学院の法曹養成教育を支援する取り組みをしてきたところである。また、前記のとおり、熊本大学法科大学院が、地方で法曹を志す者の法曹となるための教育を受ける機会を保障し、また地域司法の充実・発展に大きく寄与しているなど極めて重要な意義を有していることも明かである。
5 そこで、熊本県弁護士会は、熊本大学法科大学院のこのような重要な存在意義に鑑み、同法科大学院が「統廃合」されて地方・地域における法曹養成機能を失うことがないよう、今後さらに全力を挙げて同法科大学院を支援する。

平成25年8月7日
熊本県弁護士会 
会 長?  衛 藤 二 男