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質屋営業法改正に関する意見書

2013.12.11

質屋営業法改正に関する意見書

2013年(平成25年)12月11日
熊本県弁護士会会長 衛藤二男

第1 意見の趣旨
 質屋営業法(昭和25年法律第158号)を以下のように改正することを求める。  
1 質屋営業法1条に質契約の定義として、「質契約とは、質置主が、質物の流質処分を承諾する限り、質屋に対して借受金の弁済義務を負わず、流質処分後は借受債務が消滅する金銭貸付契約をいう。」と規定する。
2 質屋営業法18条(質物の返還)につき、質置主が元利金を支払うときに質物を直ちに受け戻すこと及び質置主が元利金を支払うか流質処分とするかを選択することができるようにするため、以下の規定を設ける。
 (1) 弁済について、金融機関等の自動引落しその他自動決済システムを利用することを禁止し、かつ、弁済は質契約が成立した営業所において行うこと。
 (2) 質屋は、質置主が元利金を弁済しようとするときは、あらかじめ、流質処分を選択できること、流質処分を選択したときは借受金の弁済義務を負わないことを告知しなければならないこと。
3 質屋営業法19条(流質物の取得及び処分)に、「質屋は、流質期限を経過した時において、質物の所有権を取得した後、質置主に弁済の履行を請求してはならない。」との条項を加える。
4 質屋営業法30条(罰則)につき、改正後19条違反(流質後請求)の場合、貸金業法47条の3と同様に「二年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」との条項を加える。
5 貸金業法20条の2(公的給付に係る預金通帳等の保管等の制限)の規定及びその罰則(同法48条)と同様の規定を設ける。
6 質屋営業法36条において質屋に認められた特例高金利(年109.5%)を引き下げる方向で検討する。

第2 意見の理由
1 偽装質屋問題について   
 (1) 偽装質屋とは
 偽装質屋とは、質屋営業の許可は受けているものの、質物として無価値あるいはほぼ無価値な物品を預かっ て金員を貸し付ける業者のことをいう。   
 (2) 偽装質屋の実態と被害の拡大防止の必要性
 偽装質屋は、2006年(平成18年)12月に公布された改正貸金業法が2010年(平成22年)6月に完全施行され、いわゆる総量規制や上限金利引下げが実現する時期の前後から、九州を中心に出現し、最近は関西・関東へ広がりを見せている。
 この偽装質屋は、形式的には質屋営業法上の許可を受けてはいるが、壊れた時計や雑誌の付録など価値のない物品を質物として預かり、質屋に認められた特例高金利(年109.5%)に基づく高い利息を取って金員を貸し付けている。
 このように、偽装質屋の実態は小口高利金融であって、貸金業法の無登録営業を行っているものである。そのため、警察庁が各都道府県に偽装質屋の取締強化を指示しており、実際に、福岡県警が2012年(平成24年)10月に貸金業法(無登録営業)および出資法(高金利)違反の容疑で質屋2社に対する捜索を行い、2013年(平成25年)5月に同社代表者らを逮捕し、同月下旬、同社代表者らは起訴された。また、2012年(平成24年)11月には大分県警が貸金業法と出資法違反の容疑で北九州の質屋の経営者を逮捕し、2013年(平成25年)2月には鹿児島県警が貸金業法と出資法違反の容疑で鹿児島の質屋の営業者らを逮捕し、同年5月には群馬県警が貸金業法と出資法違反の容疑で高崎の質屋の経営者を逮捕した。
 また、国民生活センターの発表によると、偽装質屋に関する相談件数は、2010年(平成22年)が44件であったのに対し、2011年(平成23年)には85件と倍増し、2012年(平成24年)には194件とさらに倍増しており、問題が深刻化していることが窺われる。
 したがって、このような偽装質屋の被害がこれ以上拡大しないように早急に法改正を行うことが必要である。   (3) 偽装質屋の違法性
 偽装質屋は、以下の点において質屋を「偽装」したものであり、その実態は貸金業者である。
ア 壊れた時計や雑誌の付録など、貸付債権の額に見合わない物品を質物として預かり、金員を貸し付けている。
イ アで記載したような物品を「質物」として金員を貸し付けるという方法により、出資法の上限金利規制を潜脱し、高利を貪っている。
ウ 質物の価値に興味がないため、貸付金の回収を確実なものとするべく、弁済に関し、金融機関等の自動引落システムを利用して、弁済の確保を図っている。
エ 流質期限を経過しても質置主に対して貸付金元金及び利息の支払いを求める。
オ 偽装質屋の被害者には年金や生活保護受給者等公的給付の受給者が多く、ウの方法と相まって、公的給付を事実上担保にとることで回収を確実なものとしている。
 このうち、偽装質屋の違法性の本質は、上記アの点にある。すなわち、「質屋営業法第一条によれば質屋営業とは物品(有価証券を含む)を質に取り流質期限までに当該質物で担保される債権の弁済を受けないときは当該質物をもつてその弁済に充てる約款を附して金銭を貸付ける営業をいうのであるから無担保又は無担保に等しい扱いを以て金銭を貸付ける行為は質屋営業の範囲を超える」(大阪高裁昭和27年6月23日判決、高裁判例集5巻3号432頁)という点こそが明らかにされなければならない。この点、年金等の公的給付を担保にする点が注目される傾向にあるが、これは回収を確実にするための手段に過ぎず、派生的な違法に過ぎないというべきである。
 そして、このような偽装質屋の問題を解決するためには、以上の偽装質屋の違法な営業実態が、正常な質屋営業の範囲を超えるという点に着目し、その是正という観点を重視して法改正を行うべきである。
 2 具体的な改正点について   
 (1) 質屋営業法1条の質契約の定義
 質屋営業法1条1項は、質屋営業の定義を、「物品(有価証券を含む。第22条を除き、以下同じ。)を質に取り、流質期限までに当該質物で担保される債権の弁済を受けないときは、当該質物をもつてその弁済に充てる約款を附して、金銭を貸し付ける営業をいう。」と規定するのみで、質契約についての定義規定を設けていない。
 この点、質契約は、質置主が質物の流質処分を承諾する限り、質屋に対して借受金の弁済義務を負わず、流質処分後は借受債務が消滅するものである。したがって、質屋と貸金業者とは、上記のような清算のあり方に関して、営業内容が相当に異なるものである。
 そこで、単に質屋営業の定義規定だけでなく、質契約についても定義規定を置くことで、通常の質屋営業を行うものか、質屋営業を偽装した貸金業者なのかの判断基準を明確にするべきである。
 (2) 質置主による選択の機会の確保
 偽装質屋は、無価値あるいはほぼ無価値な物品を質物として預かることにより、質屋を偽装して金員を貸し付ける業者であるから、借主である質置主が流質を選択することを阻止しなければ、自らの債権の満足を得ることができない。そのため、偽装質屋は、弁済日に銀行預金、とりわけ年金等の公的給付がなされる銀行預金から自動引落しにより元利金の弁済を受けている。
 しかし、本来の質契約においては、質置主は、借入元利金以上の価値がある質物を対象として質契約を締結している以上、元利金を弁済して質物の返還を受けるか、元利金を弁済せずに流質処分とするかを選択できる機会が確保されていなければならない。そうすると、当初から銀行預金からの自動引落しによる弁済を選択することは、質置主に保障された上記選択の機会を奪うものである。
 したがって、元利金の支払いについては、自動引落としによる弁済はもちろん、銀行振込みによる弁済は禁止すべきである。
 また、質置主による選択の機会を確保するためには、選択した手段が容易に実現できることが必要である。そこで、質屋の店舗において弁済することを義務づけるとともに、元利金の弁済を受ける前に流質を選択することができる旨告知する義務を質屋に課すべきである。
 (3) 取立行為の規制
 質置主は、質屋契約においては、流質を選択して、借受債務を消滅させることができるのである以上、質屋は、質置主が流質を選択したときは、債権が消滅し、取立行為を行うことができないことは明らかである。
 しかし、偽装質屋は、質置主によ る流質処分を阻害し、流質期限が経過しているにもかかわらず、執拗な取立行為を行い、貸付金の回収を図っている。偽装質屋のこのような取立行為は、通常の質屋営業の範囲を超えるものである。
 したがって、質屋は、質置主が流質を選択した後は、質屋から質置主に対する取立行為を禁止し、これに罰則を付することは当然である。
 (4) 年金等公的給付の担保禁止
 偽装質屋は、流質処分により貸付金の回収を図ることができないため、弁済日に銀行預金、とりわけ年金等の公的給付がなされる銀行預金から自動引落しにより元利金の弁済を受けている。
 しかし、このような行為は質置主による流質の機会を奪うものであるばかりか、年金等の公的給付を担保にとるものであり、貸金業法20条の2(公的給付に係る預金通帳等の保管等の制限)を潜脱するものである。
 そこで、質屋営業法において貸金業法20条の2と同様の規定を罰則を含めて設けることにより、これを明示的に禁止すべきである。
 (5) 特例高金利の制限
 質屋営業法では、特例高金利として年109.5%が認められている。この特例高金利は、出資法上の唯一の例外であるところ、このような高金利が認められた趣旨は、質物の鑑定や保管に費用がかかるためであると説明されている。
 しかし、現今の市場金利が大幅に低い時代に、この特例高金利が合理性を持つか、検証されるべきである。

第3 結論
 よって、意見の趣旨記載のとおり、質屋営業法を改正すべきである。

以上