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商品先物取引法施行規則及び商品先物取引業者等の監督の基本的な指針の改正案に反対する会長声明

2014.09.10

1 はじめに
 2014年4月5日付けで,経済産業省及び農林水産省において商品先物取引法施行規則(以下「規則」という。)及び商品先物取引業者等の監督の基本的な指針(以下「指針」という。)の改正案(以下それぞれの改正案を「規則改正案」,「指針改正案」という。)が公表された。

2 規則改正案について
? 規則改正案の概要
 規則改正案は,規則第102条の2を改正して,ハイリスク取引の経験者に対する勧誘以外に,熟慮期間等を設定した契約の勧誘(顧客が70歳未満であること,基本契約から7日間を経過し,かつ,取引金額が証拠金の額を上回るおそれのあること等についての顧客の理解度を確認した場合に限る。)を不招請勧誘(顧客の要請によらない訪問・電話勧誘)の禁止の適用除外規定に盛り込むものである。
 しかし,このような規則改正は許されるべきではない。

? 不招請勧誘規制の経緯
 そもそも,商品先物取引における不招請勧誘の規制については,長年,同取引による深刻な被害が発生し,度重なる行為規制強化の下でもなおトラブルが解消しなかったため,与野党一致の下で2009年7月に商品先物取引法を改正し,禁止規定(商品先物取引法第214条第9号)が導入された経緯がある(2011年1月施行)。
 
 また,同法が改正される際の国会審議において,「商品先物取引に関する契約の締結の勧誘を要請していない顧客に対し,一方的に訪問し,又は電話をかけて勧誘することを意味する「不招請勧誘」の禁止については,当面,一般個人を相手方とする全ての店頭取引及び初期の投資以上の損失が発生する可能性のある取引所取引を政令指定の対象とすること。」,「さらに,施行後1年以内を目処に,規制の効果及び被害の実態等に照らして政令指定の対象等を見直すものとし,必要に応じて,時機を失することなく一般個人を相手方とする取引全てに対象範囲を拡大すること。」との附帯決議がされている。

? 規則第102条の2第1号について
 規則改正案のうち,規則第102条の2第1号は,ハイリスク取引の経験者に対する勧誘を不招請勧誘禁止の適用除外とするものであるが,現行の規則第102条の2では,当該商品先物取引業者との「継続的取引関係にある顧客」とされているものを,「既契約者」として,自社以外の顧客に対する不招請勧誘を禁止の適用除外に含めようとする。
 しかし,自社以外の顧客に対する,商品先物取引の勧誘を目的とする電話又は訪問による勧誘を誘発するおそれがあり,また,客観的資料等による確認がなされないまま,自社以外の商品先物取引業者との間でハイリスク取引の経験があると申告させて,自社との商品先物取引契約を締結させるおそれがある。

? 規則第102条の2第2号について
ア 商品先物取引法第214条第9号及びそれに基づく商品先物取引法施行令第30条により禁止されている不招請勧誘について,省令で禁止の対象から除外することが許される行為は,「委託者等の保護に欠け,又は取引の公正を害するおそれのない行為」に限定されている。
 規則改正案は,事実上70歳未満の個人顧客について,熟慮期間等を設定した契約の勧誘(規則第102条の2第2号)を加えるものであるが,以下に述べるとおり,熟慮期間等の設定を考慮しても,70歳未満の個人顧客に対しては,電話又は訪問による勧誘を事実上解禁することになり,規則により不招請勧誘禁止を定めた法律の規定を骨抜きにするものであり,法律の委任の範囲を超えていると言わざるを得ない。
 なお,規則第102条の2第2号は,70歳以上の場合は契約できないとするものの,商品先物取引業者が70歳以上の顧客に対して,勧誘目的で電話又は訪問すること自体を禁止する文言ではなく,商品先物取引業者が,顧客に勧誘目的で無差別に電話又は訪問を行って顧客との接点をもった後,当該顧客が70歳以上であった場合には,後日,当該顧客から商品先物取引を行いたいとの申出があったとして,商品先物取引を開始させるといった潜脱行為が行われることは容易に予想されることである。
イ 規則改正案は,商品取引契約の内容として7日間の熟慮期間を設定し,取引金額が証拠金の額を上回るおそれのあること等についての理解度を確認するとするものである。
 こうした熟慮期間は,旧海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律(以下「海先法」という。)に類似の規定があったが,トラブル防止にほとんど機能しなかった。また,書面による理解度確認についても,これまでなされていた方法とはいえトラブル防止には役立たなかった。規則改正案では,このような歴史的事実を踏まえていない。

 一旦不招請勧誘によって商品先物取引業者従業員のセールストークを信じて基本契約の締結をした者は,その程度の期間では翻意の可能性は低い。また,理解度確認の書面についても,同従業員から「取引を開始するのに必要な書面である」などと言われ,それに従って作成してしまうことは,これまでの被害例において多々見られたところである。この熟慮期間を,例えば海先法における14日に拡大するとしても,不招請勧誘による商品先物取引被害の歯止めになるとは考えられないものである。これをもって「委託者等の保護に欠け,又は取引の公正を害するおそれのない行為」とは到底言えないのである。

3 指針改正案について
? 年金等生活者に対する勧誘について
 指針改正案は,Ⅱ-4-2(4)②イにおいて,顧客が70歳未満か70歳以上かを問わず,給与所得等の定期的所得以外の所得である年金,恩給,退職金,保険金等(以下「年金等」という。)により生計を立てている者とは契約できないとしている。
 年金等生活者に対する勧誘を,例外なく不適当な勧誘とすることは,被害防止の観点から一定の効果を持ち得るものではあるが,顧客から,給与所得等の定期的所得により生計を立てていることを客観的資料により確認することを義務付けなければ,不十分である。
 
 さらに,商品先物取引被害は,年金等生活者を顧客とする場合に限らないのであって(現に,不招請勧誘禁止規制導入後の被害例にも年金等生活者以外の被害事例が含まれている。),指針によって年金等生活者に対する勧誘を不適当な勧誘として位置付けたとしても,なお,多くの被害の発生を防ぐことはできない。

? 商品先物取引未経験者の保護について
 指針改正案では,規則第102条の2第2号の規定による勧誘により契約した顧客に関し,直近の3年以内に延べ90日以上の商品先物取引の経験がない顧客に対する,最初の取引を行う日から90日を経過するまでの間における取引証拠金等の額が投資可能資金額の3分の1を超える取引の勧誘を不適当な勧誘とする。
 こうした規制は,従来の「商品先物取引の委託者の保護に関するガイドライン」において,商品先物取引未経験者の保護措置に関する規定として適合性の原則関係として盛り込まれていたもの(同ガイドライン「A.適合性の原則(法第215条)関係」「4.社内審査手続等」)であり,商品先物取引業者の不正行為を量的に具体的に規制するものとして重要であるにもかかわらず,現行の指針策定の際に削除したことが問題なのであって(日本弁護士連合会2010年12月10日付け「商品先物取引業者等の監督の基本的指針()に対する意見」において指摘されている。),不招請勧誘による顧客であるか否かを問わず,当然に設けられるべきものであり,契約締結前の不招請勧誘の禁止を緩和する理由となるものではない。

4 結論
 以上のような問題点を抱える規則改正案及び指針改正案は,そもそも透明かつ公正な市場を育成し,委託者保護を図るべき監督官庁の立場と相容れないものである上,「委託者等の保護に欠け,又は取引の公正を害するおそれのない行為として主務省令で定める行為を除く」(商品先物取引法第214条第9号括弧書き)とする法律の委任の範囲を超え,施行規則によって法律の規定を骨抜きにするものと言わざるを得ない。
 当会は,規則改正案及び指針改正案に反対する。


2014年(平成26年)9月10日

熊本県弁護士会 会長 内田 光也