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「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長声明

2014.10.21

1 昨年12月,国際観光産業振興議員連盟(通称「IR議連」)に所属する有志の議員によって,「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(以下「カジノ解禁推進法案」という。)が国会に提出され,今国会において審議されると報道されている。
 カジノ
解禁推進法案は,将来のカジノ設置を前提に,カジノ設置を合法化するための措置を講じるというものである。また,カジノ設置の目的は,集客による地域経済の振興と,カジノ収益の社会への還元にあるとされている。

2 しかし,カジノが統合型リゾート(統合型リゾートとは,会議場施設,レクリエーション施設,展示施設,宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設をいう。以下「IR」という。)内でのみ行われること(以下「IR方式」という。)からすれば,カジノ設置による集客が,IR以外の地域施設の利益に直結するとは考えがたい。かえって,従来から地域に存在した宿泊施設が,IRに対抗できず,衰退する可能性がある。現に,韓国,米国等ではカジノ設置自治体の人口が減少したり,多額の損失を被ったという調査結果も存在しており,カジノ設置による経済効果を当然の前提とすることはできない。
 また、
IR方式においては,民間企業が,直接,施行,開発,そして運営をするとされているが,民間企業が運営するカジノに対する規制には限界があり,カジノ収益の社会への還元が保証されているとは言いがたい。

3 また,カジノ設置による悪影響が強く懸念される。
 まず
,暴力団が資金源として,カジノ関与に強い意欲を持つことは容易に想定されるところ,事業主体として参入し得なくても,事業主体に対する出資や従業員の送り込み,事業主体からの委託先・下請けへの参入等は可能であり,カジノ運営による利益が反社会的勢力に流れる可能性がある。
 また
,ギャンブル依存症は,慢性,進行性,難治性で放置すれば自殺に至ることもある極めて重篤な疾患である。特に,我が国においては,世界各国と比べてその発症率は極めて高く,ギャンブル依存症の患者は推定で560万人以上にも達する。ギャンブル依存症の者が多重債務に陥ることも多く,生活の困窮が犯罪,自殺,ドメスティック・バイオレンス等に繋がることは周知の事実であり,カジノの設置によって,カジノ利用者のみならず,その家族等にも取り返しのつかない損害が生じうる。
 その上
,IR方式では,家族で出かける先に賭博場が存在する形式であるから,青少年らが賭博行為の危険性を正しく認識できないまま成長することになりかねない。

4 既に公認されている公営ギャンブルと比較して,カジノについても,違法性阻却を認めることができるかどうかについては,その予想される弊害に照らし,目的の公益性,運営主体の性格,収益の扱い,射倖性の程度,運営主体の廉潔性・健全性,運営主体への公的監督,副次的弊害の防止等の観点から,具体的に検討されなければならない。しかしながら,カジノ解禁推進法案では民間企業が運営するカジノ施設における不正行為の防止や運営に伴う有害な影響の排除の措置等は何ら具体的ではないことから,カジノにおいては,違法性阻却を認めることができない。

5 カジノ解禁推進法案は,カジノ設置が経済的な利益をもたらすこと及びカジノによる収益が社会へ還元されることを前提としているが,これまで述べたように,この2点を当然の前提とすることはできない。そして,カジノ設置による悪影響が強く懸念され,その排除の措置等が具体的でないことからすれば,現状でカジノの設置を確定事項とすることは到底認められない。
 よって
,当会は,カジノ解禁推進法案に強く反対し,本法案の廃案を求める。

以上

平成26(2014)年10月21日
熊本県弁護士会
会 長  内田光也