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「商品先物取引法における不招請勧誘禁止緩和」に抗議する会長声明

2015.03.11

1 経済産業省及び農林水産省は、2015(平成27)年1月23日、商品先物取引法施行規則(以下、「規則」という。)の一部を改正する省令(以下、「本省令」という。)を定め、商品先物取引について不招請勧誘の禁止を緩和することを公表した。
 当会は
、2014(平成26)年4月5日付けで公表された規則の改正案に対し、同年9月10日付けの会長声明において、これに反対する意見を表明してきたところである。

2 
本省令は、上記改正案を若干修正し、規則第102条の2を改正して、ハイリスク取引の経験者に対する勧誘以外に、顧客が65歳未満で年収800万円以上又は金融資産2000万円以上の者等について、顧客の理解度を確認するなどの要件を充足した場合を不招請勧誘禁止の適用除外規定に盛り込むものである。
 しかし
、本省令の定める上記要件についての顧客の適合性確認は、電話・訪問の勧誘行為の一環として実施されるものであるから、本省令は、事実上、不招請勧誘を全面的に解禁するものにほかならない。
 さらに
、委託者に年収や資産の確認の方法として申告書面を差し入れさせたり、書面による問題に回答させて理解度確認を行う等の手法は、いずれも、現在に至るまで、多くの商品先物取引業者が事実上同様の手法を採っているものであるが、その中で業者が委託者を誘導して事実と異なる申告をさせたり、正答を教授するなどの行為を行って形式的に書面を整えさせ、委託者に被害を生じさせていることは、過去の多くの裁判例を見ても明らかであり、これらの手法が委託者保護のために機能するものとは到底評価することはできない。

 そもそも、商品先物取引における不招請勧誘の規制については、長年、同取引による深刻な消費者被害が発生し、度重なる行為規制強化の下でも沈静化しなかったため、与野党一致の下で2009(平成21)年7月に商品先物取引法(以下、「法」という。)を改正し、不招請勧誘禁止規定(法第214条第9号)が導入され、2011(平成23)年1月に施行されたものである。
 かかる
立法経緯から、不招請勧誘を定型的に禁止することが法第214条第9号の法の趣旨であると解される。

 法第214条第9号は、委託者等の保護に欠け、又は取引の公正を害するおそれがない行為に限定して、例外的に不招請勧誘禁止の適用除外の定めを主務省令に委任しているものである。
 しかし
、本省令は、顧客適合性確認の名の下に、電話・訪問による不招請勧誘を事実上全面的に解禁するもので、法の趣旨に反している。また、本省令に規定された手法が、消費者保護のために機能するものとは評価できない。
 こ
のように、本省令は、委託者等の保護という法第214条第9号の趣旨を、法律の下位規範である省令によって、実質的に骨抜きにするものにほかならず、法律の委任の範囲を逸脱したものといわざるを得ない。

 以上のとおり、本省令は、これまでの不招請勧誘禁止規定の立法経緯及び被害実態を軽視し、法律の委任の範囲を逸脱したものであって、消費者保護の観点から到底許容することができない。
 当会
としては、本省令の制定に抗議すると共に、2015(平成27)年6月1日に予定される本省令の施行に強く反対するものである。

2015(平成27)年3月11日
熊本県弁護士会 会長 内 田 光 也