少年法の適用年齢引下げに反対する会長声明
自由民主党は、「成年年齢に関する特命委員会」を設置し、少年法の適用年齢を現行の20歳未満から18歳未満に引き下げる少年法改正を検討していると報じられている。この議論は、本年6月17日に成立した、選挙権年齢を18歳まで引き下げる「公職選挙法等の一部を改正する法律」と関連してなされている。
しかし、法律の適用年齢は、それぞれの法律の立法趣旨や目的に基づいて定められている。例えば、民法は成年を20歳と定める一方で養子縁組能力や遺言能力を15歳で認めており、風俗営業法上の規制にあたるパチンコ店への入店は18歳から認められている。このように、法律が適用される年齢を検討するにあたっては、その法律の立法趣旨や目的に照らして個別具体的に検討しなければならず、選挙権年齢が引き下げられることは、少年法適用年齢を引き下げるべきであるとの根拠とはならない。
現行少年法がその適用年齢を20歳未満としたのは、20歳くらいまでは心身の発達が十分でなく、環境その他の外部的条件の影響をうけやすいと考えられたことから、人格の形成途上で精神的に未熟な若者が非行を行った際、刑罰を科すのではなく、性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うことにより、若者の健全育成を図り、再犯を防止する方が適切であると判断したためである。このような少年法の立法趣旨に則り、刑罰法令に触れた少年は、すべて家庭裁判所に送致され、家庭裁判所調査官による社会調査や、場合によっては少年鑑別所における心身鑑別を通じて、非行の動機や背景事情が調査され、必要な対策が講じられることとされている。
2013(平成25)年に検察庁が新しく通常受理した少年被疑者数10万8312人のうち、年長少年(18歳、19歳)は4万8642人であり、44.9%を占めている(検察統計年報)。したがって、仮に少年法適用年齢が18歳未満に引き下げられた場合、家庭裁判所が取り扱っていた少年の約45%が、少年法の適用から除外され、家庭裁判所の手続に乗らないことになる。そうすると、人格的に発達途上にある少年の多くは、非行の性質や、少年の資質・生育環境に応じた柔軟な処分を受けることができなくなってしまう。このことは、少年法の立法趣旨に著しく反する結果となる。
また、少年法の適用年齢引下げの立法事実として、「少年の凶悪事件が増加している現状においては、現行の少年法は甘い。」という指摘がなされることがある。しかし、このような指摘は、統計上、刑法犯少年の検挙人員数が減少しており、少年による凶悪犯罪の検挙人員数も減少しているという事実に反している。その上、重大犯罪を犯した少年については、家庭裁判所から検察官へ送致(逆送)されるというルートが確保されており、このような少年は成人と同様の手続で刑事裁判を受けることとなる。これらのことから明らかなとおり、少年法の適用年齢を引き下げるべき事実(立法事実)は存在しない。
以上のように、少年法の適用年齢の引下げは、少年法の立法趣旨に反するばかりか、その必要性を基礎づける立法事実が存在しないため、当会は、これに強く反対する。
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2015(平成27)年8月12日
熊本県弁護士会 会長 馬場 啓