司法修習生に対する給費の実現等を求める会長声明
司法修習生への給費の実現・修習手当の創設については、日本弁護士連合会・各弁護士会に対して、多くの国会議員から賛同のメッセージが寄せられているが、先日、同賛同メッセージの総数が、衆参両院の合計議員数717名の過半数である359名を超えた。メッセージをお寄せいただいた国会議員の皆様に対し感謝の意と敬意を表する。
賛同のメッセージは与野党を問わずお寄せいただいており、司法修習生への給費の実現・修習手当の創設の必要性についての理解が与野党の垣根を越えて広がりつつあるものと認識している。
そもそも、司法制度は、社会に法の支配を行き渡らせ、国民の権利を実現するための社会的インフラであり、法曹たる裁判官、検察官及び弁護士はいずれも、かかる公共的価値を実現するために欠かせない存在である。国には、国民に対し、この社会的インフラを確保する責務があり、そのための制度の根幹として法曹を養成する司法修習制度がある。国は、この司法修習制度を効果的なものにするために不可欠なものとして、司法修習生に対し修習専念義務を課し、従来、給与を支払ってきた。
しかし、2011年11月から、司法修習生に給与を支払う制度(給費制)が廃止され、修習期間中に費用が必要な修習生に対しては修習資金を貸与する制度(貸与制)に変更された。
司法修習生には、大学や法科大学院における奨学金の債務を負っている者も多く、その上、司法試験に合格した後もなお司法修習期間の1年間にわたって無給となったため、修習資金の貸与金と奨学金の合計額が多額に上る者も多く、日本弁護士連合会が実施した第68期司法修習生を対象としたアンケートの結果から、司法修習生が、その経済的不安ゆえに司法修習に十分に専念できない現状が明らかとなっている。
近時、法曹志望者が激減の一途をたどっているが、こうした重い経済的負担がその一因となっていることは明らかである。法曹が司法制度を支える不可欠の存在であることからすれば、法曹に広く有為の人材が集まることが重要なことである。
こうした事態を重く受け止め、法曹に広く有為の人材が集まり、法曹志望者が経済的理由によって法曹への道を断念する事態が生ずることのないよう、また、司法修習生が安心して修習に専念できる環境を整えるため、司法修習生に対する給費の実現・修習手当の創設が早急に実施されるべきである。
昨年6月30日、政府の法曹養成制度改革推進会議が決定した「法曹養成制度改革の更なる推進について」において、「法務省は、最高裁判所等との連携・協力の下、司法修習の実態、司法修習終了後相当期間を経た法曹の収入等の経済状況、司法制度全体に対する合理的な財政負担の在り方等を踏まえ、司法修習生に対する経済的支援の在り方を検討するものとする。」との一節が盛り込まれた。
これは、これまで幾多の法曹養成制度改革に関する政府組織での提言、決定等が貸与制を前提と明言していたことに比べると、大いに前進したものと評価できるものである。
以上から、当会は、次のとおり求める。
1 法務省、最高裁判所等の関係各機関は、司法修習制度を効果的に運営
するという観点から、司法修習生の経済的負担の在り方について、直ちに
具体的な検討を開始すること。
2 国会は、司法修習生への給費の実現・修習手当の創設に対し、国会議員
の過半数が賛同のメッセージを寄せられていること及び政府においても上記
のような決定がなされたことを踏まえて、給費の実現・修習手当の創設を
内容とする裁判所法の改正をすること。
2016年(平成28年)1月20日
熊本県弁護士会
会 長 馬 場 啓