特定商取引法に事前拒否者への勧誘禁止制度の導入を求める意見書
第1 意見の主旨
特定商取引法を改正し、事前拒否者への電話勧誘販売を禁止する制度及び事前拒否者への訪問販売を禁止する制度を設けるべきである。
第2 意見の理由
1 現行の規定が不十分であること
現行の特定商取引法は、訪問販売及び電話勧誘禁止について、契約を締結しない意思表明をした消費者に対する勧誘を禁止している(特定商取引法第3条の2第2項、同法第17条)。
しかし、消費者庁は、勧誘を受ける意思がない旨を表示したステッカーを門戸に掲示するなどの、事前かつ包括的な拒絶の表明は、特定商取引法第3条の2第2項及び同法第17条における「契約を締結しない意思表明」に該当しないとの見解を示している(「特定商取引に関する法律第3条の2等の運用指針―再勧誘禁止規定に関する指針―」)。
このような見解を前提とすると、消費者は、事業者からの勧誘に応答したうえで、個別に拒否の意思を表明する必要がある。また、消費者被害が発生した場合に、個別の拒否の意思を立証することの難しさから、被害者の救済が実現されないおそれが生じる。
2 事前拒否者への勧誘を禁止する制度導入の必要性
以上のとおり、現行の特定商取引法では、個別に拒否の意思を表明する必要があることから、事業者は、勧誘を望まない消費者に対しても、一度は接触して勧誘することができることとなる。
しかしながら、消費者の要請なしに行なわれる勧誘は、私生活の平穏を害し、消費者にとってそれ自体が迷惑なものである。また、勧誘が不意打ち的で一方的になりがちであることから、事業者と消費者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差のもとで、消費者が不本意な契約を締結することも少なくない。
電話・訪問による勧誘は、消費者が応答を余儀なくされるリアルタイム型(即時型)の勧誘であることから、その傾向が顕著となる。それゆえ、不当・不正な契約にもつながり、悪質商法の温床ともなりやすい。
そこで、特定商取引法を改正し、事前拒否者への電話勧誘販売を禁止する制度(いわゆる「Do-Not-Call制度」)及び事前拒否者への訪問販売を禁止する制度(いわゆる「Do-Not-Knock制度」)を早急に導入することで、消費者の生活の平穏と被害防止を図るべきである。
3 制度の具体的内容について
? 事前拒否者への電話勧誘販売を禁止する制度(いわゆる「Do-Not-Call制度」)について
不招請勧誘の規制のあり方としては、要請・同意のない勧誘を禁止するオプトイン方式と、拒絶後の勧誘を禁止するオプトアウト式の2種類が考えられるが、いわゆるDo-Not-Call制度は、オプトアウト方式の規制の一種である。
諸外国では、南北アメリカ(アメリカ、アルゼンチン、カナダ、ブラジル及びメキシコ)、ヨーロッパ(アイルランド、イギリス、イタリア、オランダ、スペイン、デンマーク、ノルウェー、フランス及びベルギー)及びアジア・オセアニア(インド、オーストラリア、韓国及びシンガポール)の各国でDo-Not-Call制度が採用されており、これらの国々以外でも、業界団体がDo-Not-Call制度に相当するサービスを実施しているほか、ドイツ等では、オプトイン方式の規制が採用されている。
具体的な制度設計としては、事業者が、その保有する電話番号等のリストを事前拒否者の登録情報を管理する機関に開示し、登録機関がそこに登録者の情報があるかを確認する方式(いわゆるリスト洗浄方式)を採用するべきである。なぜならば、事前拒否者の登録情報を事業者が取得する方式(いわゆる勧誘拒絶リスト取得方式)の場合には、事業者が保有・把握していない登録者の情報を新たに知ることができるため、悪質な事業者による勧誘の増加及び登録情報の転売などの危険があるからである。
? 事前拒否者への訪問販売を禁止する制度(いわゆる「Do-Not-Knock制度」)について
訪問販売によるトラブル・相談の現状にかんがみると、訪問販売においても、電話勧誘と同じく、事前拒否者への訪問販売を禁止する制度の導入が必要である。
この点、消費生活条例等において、事前に示された勧誘拒絶の意思を無視して勧誘することを「不当な取引方法」として禁止する地方自治体も少なくない。このような自治体の取り組みは、不招請勧誘に対する対策として非常に有益なものであるが、違反への対応が指導・勧告及び公表に限定されている点で限界がある。
そこで、特定商取引法第3条の2第2項については、上記運用指針の改定にとどまらず、法改正により、勧誘を受ける意思がない旨を表示したステッカーの掲示など、訪問販売勧誘拒絶の表示をした者に対する訪問及び勧誘を禁止する明文の規定をおくなどして、訪問販売の事前拒否に明確な法的根拠を与え、これを無視して勧誘することを禁止する訪問勧誘拒否制度を、速やかに導入するための施策を講じるべきである。
4 制度導入をめぐる議論について
近年、Do-Not-Call制度及びDo-Not-Knock制度に関して、各地の消費者団体及び弁護士会から導入を求める意見が相次いで発表されているものの、内閣府の消費者委員会特定商取引法専門調査会においては、委員間で立法に対する対応の必要性も含めた共通認識が形成されるに至っておらず、経済団体から各制度の導入に反対する意見も公表されている。
しかしながら、訪問や電話を用いた不招請勧誘による消費者被害の根絶を図るためには、Do-Not-Call制度及びDo-Not-Knock制度の導入は必要不可欠なものである。
5 まとめ
以上のとおり、当会は、政府に対し、意見の趣旨記載のとおり、特定商取引法を改正し、Do-Not-Call制度及びDo-Not-Knock制度を設けることを求める。
平成28年1月13日
熊本県弁護士会会長 馬場 啓
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