生活保護における義援金等の収入認定に関する会長声明
1. 平成28年熊本地震では、多くの人々が被災しており、生活保護受給者(以下「被保護者」という。)も例外ではない。このような状況の下、被災者に対する義援金の第一次配分が決定し,その支給が進みつつある。
2. 震災時の義援金、災害弔慰金、補償金、見舞金等(以下「義援金等」という。)に関しては、東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所・同第二原子力発電所事故の際、福島県内の一部自治体において義援金や仮払補償金を収入認定して生活保護の打ち切りがなされた事例が発生した。実際、生活保護を受給する被災者の中には、義援金等を受領した結果、収入認定されることにより、生活保護費の減額や停止がなされることを懸念し、義援金の受領を躊躇する動きが広がりつつあるとの報道もある。
3.そもそも、義援金等は、被災者の生活基盤の回復に利用すること、被災したこと自体に対する慰謝や弔慰を趣旨として支給されるものであって、本来、その全額が収入認定になじまないものないし自立更生にあてられるべきものである。
4.この点、生活保護制度の運用について定めた厚生事務次官通知「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和36年4月1日厚生省発社第123号、以下「次官通知」という。)は、「社会事業団体その他(地方公共団体及びその長を除く)から被保護者に対して臨時的に恵与された慈善的性質を有する金銭であって、社会通念上収入として認定することが適当でないもの」や「災害等によって損害を受けたことにより臨時的に受ける補償金、保険金又は見舞金のうち当該被保護世帯の自立更生のために当てられる額」については、収入認定しないことを定めている。また、自立更生の具体的内容について、生活保護担当職員の手引書である「生活保護手帳」は、生活基盤の回復に要する経費や治療費のほか、生業の開始・継続費用や技能習得費、介護費、就学・結婚・弔慰等様々な費目が自立更生の内容に含まれることを認めている。
5.さらに、平成28年熊本地震を受けて厚生労働省社会・援護局保護課保護係長が発出した「平成28年熊本地震による被災者の生活保護の取扱いについて」(平成28年4月27日事務連絡、以下「事務連絡」という。)は、東日本大震災を受けて同課長が発出した通知「東日本大震災による被災者の生活保護の取扱いについて(その3)」(平成23年5月2日社援保発0502第2号)等に準じた取り扱いをすること、すなわち、義援金等については「当該被保護世帯の自立更生のために当てられる額」を収入として認定しないこととし、その際、自立更生計画の策定については「被災者の被災状況や意向を十分に配慮し、一律・機械的な取扱いとならないよう留意する」ことや、緊急的に配分される義援金等については包括的に一定額を自立更生に充てられるものとして自立更生計画に計上してよいこと等、柔軟な取扱いを保護実施機関に求めている。
6.しかし、東日本大震災の際には課長通知の趣旨に反する取扱いが多々見られたことからすると、平成28年熊本地震の被災者である被保護者についても同様の事態が生じることが危惧される。
7.よって、当会は、平成28年熊本地震の義援金等について、国に対し、事務連絡の内容を改めて周知徹底するよう求めるとともに、関係各自治体に対し、被災者が安心して義援金等を受領できるよう、被災者に対してもこれを十分に周知することを求める。
?2016年(平成28年)5月24日
熊本県弁護士会
会 長 吉 田 賢 一