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「松橋事件」再審開始決定に関する会長声明

2016.06.30

? 本日,熊本地方裁判所は,いわゆる「松橋事件」に関する再審請求事件につき,再審を開始する決定をした。当会は,本決定を高く評価するものである。
 本件は,1985年(昭和60年)1月6日,被告人が,被害者宅において,切出小刀で被害者を殺害したとして,起訴されたものである。
 本件において,被告人と犯行を結びつける証拠は,自白しかない。
 被告人は,任意の長時間にわたる取調べ後,ポリグラフ検査で陽性反応が出たと捜査官から告げられた後,自白に転じ,逮捕された。
 その後,被告人は,公判廷で無罪を主張した。
 しかし,確定審は,被告人の捜査段階における自白の任意性・信用性を認め,懲役13年の有罪判決を言い渡した。その後,控訴及び上告がなされたが,1990年(平成2年)1月26日,有罪判決が確定した。
 これに対し,被告人は,有罪判決確定後も無実を訴え,服役後の2012年(平成24年)3月12日,熊本地方裁判所に再審請求を行った。
 再審請求審において,弁護団は,新証拠を提出して,被告人の自白に信用性がないことを明らかにするとともに,検察官に手持ち証拠を開示するよう求めて証拠開示命令申立てを行った。裁判所は同申立に対し証拠開示の勧告等を行い,その結果,検察官が同証拠を任意に開示するなどした。その開示された証拠の中には,実況見分時のビデオテープ等があり,被告人が取調官の誘導等のままに供述・行動していることが判明した。
 本日の開始決定は,弁護人が提出した新証拠に新規性,明白性を認め,被告人の自白の信用性を否定したものである。
 被告人は今年83歳の高齢であり,被告人が生きているうちにえん罪であることを明らかにして,救済をなすことが急務である。そのため,当会は,検察官に対し,即時抗告を行うことなく,本件を速やかに再審公判に移行させるよう強く求める。
 また,当会は,本件でより明らかになった取調べ全過程の可視化,証拠の全面開示等えん罪を防止するための制度改革の実現を目指して全力を尽くす決意である。


                       2016年(平成28年)6月30日
                                 熊本県弁護士会
                             会長  吉 田 賢 一