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テロ等組織犯罪準備罪の新設に反対する会長声明

2016.12.14

 政府は,過去3度廃案となった共謀罪創設規定を含む法案(以下「旧法案」という。)につき,「共謀罪」を「テロ等組織犯罪準備罪」と名称を改めた上,新たな法案をとりまとめ(以下「新法案」という。),来年の通常国会に提出する方針であるとの報道がなされている。
 新法案では,いわゆる共謀罪について,旧法案から次の点が変更された。

 (1) 適用対象について,旧法案が「団体」としていたものを「組織的犯罪集団」に変更し,「組織的犯罪集団」の定義を「目的が4年以上の懲役・禁錮の罪を実行することにある団体」とした。
 (2) 処罰対象について,旧法案が「共謀した者」としていたものを「二人以上で計画した者」に変更し,かつ,「計画した者」につき「犯罪の実行のための資金又は物品の取得その他の当該犯罪の実行の準備行為が行われたとき」という要件を追加した。

 このように,形式的には,犯罪成立要件が追加されたが,その本質は,旧法案と何ら変わらない。
 まず,(1)の点については,そもそも「目的が4年以上の懲役・禁錮の罪を実行することにある団体」を明確に定義することは困難であり,適法な活動を行う団体であっても,その活動の評価により,適用対象となってしまう可能性がある。そうすると,その適用対象となるか否かは解釈次第ということとなり,処罰範囲が不明確になってしまう。それのみならず,600以上もの犯罪に適用され,対象範囲が極めて広範であるという点は,旧法案と変わらない。
 次に,(2)の点については,「計画」とは「犯罪の合意」と同義であり,その法的性質は「共謀」と何ら変わりはない。また,「犯罪の実行の準備行為」との要件についても,犯罪発生の危険をほとんど含まない行為まで対象とされる可能性があり,極めて抽象的で恣意的な解釈が可能である。そうすると,行為ではなく思想を処罰するという危険性が生じるとともに,その処罰範囲が不明確なため,言論の自由・集会の自由・結社の自由等の基本的人権に対しての萎縮効果が生じることは明らかである。
 当会は,平成27年12月11日,「共謀罪の新設に反対する会長声明」を発しているが,そこで指摘した旧法案の問題点は,そのまま新法案に妥当する。
 以上のように,新法案は,旧法案の問題点を何ら解消しておらず,国民の基本的人権に対する重大な侵害を招く危険を有するものである。
 よって,当会は,新法案の提出及びテロ等組織犯罪準備罪の新設に強く反対する。

                      2016(平成28)年12月14日?
                                熊本県弁護士会
                           会? 長  吉 田 賢 一