「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(いわゆる「カジノ解禁 推進法」)の成立に抗議し,廃止を求める会長声明
1 2016年(平成28年)12月15日,「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(以下,「カジノ解禁推進法」という。)が成立した。
2 当会は,2014年(平成26年)10月21日に既に「「特定複合観光施設区域の整備の推進に 関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長声明」を公表したところである。カジノ解禁推進法の目的は,集客による地域経済の振興と,カジノ収益の社会への還元にあるとされているところ,このような目的はカジノ設置によって達せられる保証はなく,その一方で,カジノ設置による悪影響が強く懸念され,その排除の措置等が具体的でないことからすれば,カジノの設置をすることは到底認められないからである。
3 既にカジノを設置している他国の状況を見ると,韓国,米国等ではカジノ設置自治体の人口が減少したり,多額の損失を被ったという調査結果も存在している。このような客観的な調査結果の検証を十分に行わないまま短絡的にカジノ設置による経済効果を当然の前提としてはならない。
また、民間企業が,直接,カジノの運営等をするとされているが,民間企業が運営するカジノに対する規制には限界があり,カジノ収益の社会への還元が保証されているとは言いがたい。
4 さらに,暴力団が資金源としてカジノに関与することが予想され,マネー・ローンダリングにカジノが利用される懸念もある。このような反社会的勢力・行為を助長するべきではない。
ギャンブル依存症は,慢性,進行性,難治性で放置すれば自殺に至ることもある極めて重篤な疾患である。特に,我が国においては,世界各国と比べてその発症率は極めて高く,ギャンブル依存症の者が多重債務に陥ることも多い。生活の困窮が他の犯罪や紛争の原因となる可能性が高いことは周知の事実となっている。また,青少年らが賭博行為の危険性を正しく認識できないまま成長することになりかねず,国の未来を担う青少年への悪影響は社会全体の損失につながる。
カジノ設置による,治安や住環境の悪化のおそれも顕著であり,地域に対して長期的に回復困難なダメージを与えかねない。
5 カジノ解禁推進法は,刑法で賭博罪として禁止されている行為の一部を正面から公認するものである。しかも、この法律は,歴史的沿革のもと禁じるべきとされてきた行為について,十分な立法事実が示されることもマネー・ローンダリングの懸念やギャンブル依存症に対する十分な対策が講じられることもないまま,法案審議されることになったわずか2週間後に可決・成立したものである。日本の刑事司法政策ひいては日本社会に与える影響が極めて大きい問題であるにもかかわらず,そして,この間の世論調査ではカジノ解禁に反対または慎重との意見が賛成意見を大きく上回っていたにもかかわらず,国民の世論に背を向けこのような短期間の審理で法律を成立させたことは,手続としても拙速の誹りは免れず,到底許容されるものではない。
6 よって,当会はカジノ解禁推進法の成立に強く抗議し,その廃止を求める。
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2017年(平成29年)2月15日
熊本県弁護士会
会 長 吉 田 賢 一