司法修習生の経済的支援に関する裁判所法の一部を改正する法律の成立に当たっての会長声明
平成29年4月19日、平成29年度以降に採用される司法修習生に対し、給付型の経済的支援を行う「裁判所法の一部を改正する法律」が成立した。本法律は、司法修習生に対しその修習のため通常必要な期間、修習給付金として、修習期間中の生活を維持するために必要とされる基本給付金のほか、住居給付金及び移転給付金を支給することを内容とするものである。
当会は、本法律の成立に至るまで、多大なるご尽力をいただいた各団体をはじめ、法科大学院生、若手弁護士らによるビギナーズネットの長きにわたる活動のほか、本法改正にご理解いただき、並々ならぬご尽力をいただいた熊本県選出及びその他の国会議員各位に対し、感謝申し上げるものである。
現在、法曹になるには、大学卒業後、法科大学院における2年あるいは3年の課程を修了した後、司法試験を受験するのが通例であり、その間の学費、生活費等に充てるため司法試験合格までに多額の奨学金の貸与を受けている者も相当数存在することが知られている。
この状況に加え、平成23年11月からは、司法修習生への給費制が廃止されるとともに修習資金(司法修習生がその修習に専念することを確保するための資金、改正前裁判所法第67条の2第1項)を貸与する制度(以下、貸与制という)が実施された。そのため、司法試験に合格後も、司法修習に専念するために修習資金の貸与を受けざるを得ず、その経済的負担を理由に法曹になることを諦める者もいた。また、司法修習生は、修習資金という借金で生活し、それを将来返済しなければならないという経済的不安を抱えながら司法修習を行わなければならず、法曹になるために研鑽を積むべき修習にも十分に専念し難い現状があった。このように、貸与制による司法修習生の心理的経済的負担は重く、貸与制は法曹志願者激減の一因であった。
本法改正は、かかる貸与制が有する問題点を減少させ、司法修習生の生活安定に資するとともに、実務家となった後の活動を安定させることはもとより、上述のとおり経済的事情を原因として、近時進行しつつある法曹志望者の著しい減少に対し、一定程度歯止めをかけ、多様かつ有為な人材が法曹を志望する一誘因となり得るものである。司法権において、より良い担い手を養成することは、将来における国民の基本的人権の守り手を養成し、国民の人権保障を確保・充実するために必要不可欠である。その意味で、本法改正の意義は極めて重い。
ただ、現在、予定されている修習給付金の額については、多様な人材が安心して法曹を目指すという観点において、経済的な不安を解消して司法修習に専念することができる費用としては必ずしも十分なものとは言い難く、今後も増額を視野に検討されるべきである。
また、上述のとおり、平成23年11月から平成28年11月までに採用された第65期から第70期までの司法修習生については、貸与制の下で司法修習が実施されているが、本改正においても、これら貸与制世代に対する措置は現時点において何ら取られていない。本法案の審議過程においても、これらいわゆる谷間の世代の経済的負担が重いままであるとの問題点が強く指摘されたところである。同世代の者が、他の世代は負うことがない貸与金返済の負担を負うことは、法曹養成過程における「世代間」格差を認めることとなり、不公平と言わざるを得ない。これら貸与制世代に対しても、貸与金の返還義務の免除など本法改正の趣旨に従った措置が実施されるべきである。
当会は、これまでも司法修習生に対する経済的支援についての制度設立について活動を継続してきたが、今後とも、国民の権利を擁護し社会正義を実現する弁護士、裁判官及び検察官を養成する司法修習制度の充実を求め、関係諸機関と連携の下、取組みを継続する所存である。
2017(平成29)年4月27日
熊本県弁護士会
会 長 宮 田 房 之