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憲法記念日会長談話

2017.05.02

 本年5月3日、私たちは、日本国憲法施行70年を迎えます。
 日本国憲法は、国のあり方を決める権利が私たち国民にあるという国民主権を、基本理念の一つとしています。また、個人の尊重と基本的人権の保障を図るとともに、人々の自由や権利を守るため、第99条で国会議員等の公務員に対して憲法を尊重し守ることを義務づけ、国家権力の暴走を防ぐ立憲主義を基本原理としています。さらに、先の大戦の反省から、その前文において平和的生存権を定め、9条では戦力不保持、交戦権の否認を定めるなど、徹底した恒久平和主義を貫いてきました。
 しかし、近年、こうした日本国憲法の基本理念が脅かされ、私たちの国のあり方は根本から変えられようとしています。
 平成26年7月1日、政府は、「自国と密接な関係にある外国への武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」である集団的自衛権について、その行使は憲法9条に違反するとしてきた従来の憲法解釈を変更し、行使を認める閣議決定を行いました。そして、平成27年9月19日、参議院本会議における採決強行により、集団的自衛権の行使等を容認する安全保障関連法が成立し、平成28年3月29日に施行されています。長年にわたり確立してきた憲法解釈を、憲法96条に定める改正手続によることなく時の政治権力が変更し、集団的自衛権の行使を容認することは、立憲主義に対する重大な違反といわなければなりません。
 また、近時、災害対策等を理由に、憲法を改正し緊急事態条項を創設しようとする動きがあります。しかし、日本国憲法は、権力が濫用された歴史的事実を踏まえ、立憲主義と相容れない緊急事態条項についてあえて規定を設けていません。加えて、日本では大規模災害時の対処のために十分な法整備が既になされており、今後の災害への備えとして行うべきは、災害法制を災害発生時に適切・迅速に運用できるよう平時から対策・準備を充実させることです。したがって、事が起きてから憲法の基本原則を停止し政府に権力を集中させる緊急事態条項は、日本国憲法の基本原理に反する上に、災害対策に資するものでもないのですから、憲法を改正して緊急事態条項を創設すべきではありません。
 さらに、本年3月21日には、「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案が閣議決定され、国会に提出されています。
 「テロ等準備罪」は、対象犯罪の遂行を二人以上で計画(共謀)することを主な内容としていますが、いかなるときに「テロ等準備罪」が成立するのか不明確で、対象犯罪も広範なので、国民は何をもって処罰されるのか予測することができません。そのため、「テロ等準備罪」が新設されれば、言論の自由・集会の自由・結社の自由等の基本的人権に対し著しい萎縮効果が生じ、私たち市民の生活に深刻な影響を及ぼすことは明らかです。
 熊本県弁護士会は、憲法施行70年を迎えるにあたり、日本国憲法の基本原理に反し、又は、国民の基本的人権を脅かす立法及び改憲の動きに、改めて強く抗議するとともに、今後も、基本的人権の擁護と日本国憲法の基本理念を守るため、最大限の努力を尽くしていきたいと思います。


                          平成29年5月2日
                            熊本県弁護士会
                       会 長  宮 田 房 之