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銀行等による過剰貸付けの禁止を求める意見書

2017.08.09
第1 はじめに
 当会は,銀行等による消費者向けローンにおいて,近時,消費者の返済能力を超えて過剰に貸付けがなされ,消費者の破産等を発生させる起因となっている事態が散見されることから,その被害の拡大を予防する趣旨から,以下のとおり,意見を述べる。


第2 意見の趣旨
1 国は,貸金業法第13条の2等の規定を改正すること等により,貸金業者が自ら貸付けを行う場合のほか,銀行,信用金庫,信用組合等(以下「銀行等」という。)の行う貸付けに保証を付す場合についても,借入残高が年収の3分の1を超えないように総量規制の対象とすべきである。
2 銀行等は,少なくとも消費者金融会社による保証を付した消費者向け貸付けを行う際には,上記貸金業法の13の2の規定の趣旨を踏まえて,原則として借入残高が年収の3分の1を超えることとなるような貸付けを行わないなど,銀行等による貸付けが消費者にとって過剰な貸付けとならないように,消費者の実態を踏まえた適切な審査態勢を構築すべきである。
3 金融庁は,銀行等が消費者金融会社による保証を付した消費者向け貸付けを行う事例について調査するとともに,改正貸金業法の趣旨を踏まえて,原則として,借入残高が年収の3分の1を超えることとなるような貸付けを銀行等が行わないようにするよう,指針等に明記すべきである。


第3 意見の理由
 1 総量規制の導入とその成果
 平成18年(2006年)12月に成立した改正貸金業法において,個人の借入残高が年収の3分の1を超える場合に,貸金業者に対して,原則として新規の貸付けを禁止する「総量規制」が導入された。
 この総量規制の効果もあって,5社以上無担保無保証借入の残高がある者の数は約171万人(平成19年3月)から約12万人(平成28年3月),自然人自己破産の新受件数は16万5932件(平成18年)から6万3844件(平成27年)と,大幅に減少した。

 2 銀行等による貸付けの増加と貸金業法の趣旨に反する実態
 ところで,近時,貸金業法が適用されず,総量規制の対象外とされている銀行及び信用金庫等(以下,「銀行等」という。)による消費者向け貸付けが急激に増加している。
 国内銀行の消費者向け貸出において,住宅購入資金以外の「その他のローン」のうち,「カードローン等」の残高は,3兆9319億円(平成25年12月)から5兆4377億円(平成28年12月)へと,3年間で約1.38倍に急増した。これに対応するかのように,大手消費者金融会社においては,貸付残高に比較して保証残高が顕著に増加している。
 これは,銀行等による消費者向け貸付けについて,多くの消費者金融会社が機関保証をしていることに起因している。実際,弁護士が日常的に取り扱う債務整理事件においても,当初債権者は銀行等であるが,受任通知到達後に機関保証をしていた消費者金融会社が求償権を取得する事例が多々見受けられる。そういった事例の中には,債権者が全て保証会社である消費者金融会社となり,債務総額が,総量規制で上限とされた金額を大きく上回るという,総量規制の潜脱と言わざるを得ないような現象も多数生じている。
 また,銀行等による消費者向け貸付けについては,例えば「銀行のカードローンは総量規制の対象外です」「最大500万円 所得証明書一切不要」「ご利用限度額300万円以下は所得証明書原則不要」「主婦(夫)・アルバイト・派遣社員の方ももちろんお申込みいただけます。」などのように,貸金業法の総量規制の対象外であることを強調した宣伝・広告がされていることがある。
 その結果,銀行等による貸付けにおいて,借入残高が年収の3分の1を超えることとなるような貸付けの契約が締結され,それ自体が,顧客にとって過剰な借入となるケースが,今後増えていくことが非常に懸念される。
 このことは,多重債務問題が再燃し,これまでの多重債務問題解決に向けた諸活動の成果が水泡に帰することを意味する。実際,平成28年度の自然人自己破産の新受件数は6万4637件と前年比で13年ぶりに増加に転じており,早急な対策が必要となる。

 3 総量規制の趣旨及びこれを潜脱するような貸付けは許されないこと
 「総量規制」を定めた貸金業法13条の2第1項は,「返済能力を超える貸付け」を原則として禁止しており,この返済能力を超えるかどうかの判断基準として,「借入残高が年収の3分の1以内か否か」という基準が導入された。他方で,年収の3分の1を超える借入れであっても,返済期間内に完済することが合理的に見込まれ,健全な資金ニーズと認められるような例外的な場合については,「当該顧客の利益の保護に支障を生ずることがない契約」として内閣府令(貸金業法施行規則第10条の23)で定めるものとしている。そして,これらの例外を除き,借入残高が年収の3分の1を超えることとなる契約は,原則として「返済能力を超える貸付け」に当たるから,これを禁止する必要があるというのが,改正貸金業法の趣旨であった。
 このような趣旨からすれば,総量規制の対象外とされた銀行等の貸付けについても,借入残高が年収の3分の1を超えることとなるような貸付けの契約を締結することは,例外的な事情が認められない限り,顧客の返済能力を超える貸付けに当たること,それ自体には変わりはないはずである。この点,金融庁は,「主要行等向けの総合的な監督指針」Ⅲ-6-3「消費者向け貸付けを行う際の留意事項」及び「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」Ⅱ-7「消費者向け貸付けを行う際の留意点」の中で,「銀行が消費者向け貸付けを行う場合,適切な審査や厳しい取立ての防止など,改正貸金業法(平成22年6月施行)における多重債務の発生抑制の趣旨や利用者保護等の観点を踏まえ,所要の態勢が整備されることが重要である。」とし,「また,貸金業者による保証を付した銀行等による貸付けには,改正貸金業法第第13条の2に規定するいわゆる総量規制等,同法の適用はないが,顧客保護やリスク管理の観点から,本項に規定している所要の態勢整備を図ることが重要である。」としている。
 そして,金融庁は,「主な着眼点」として,「改正貸金業法の趣旨を踏まえた適切な審査態勢等の構築」を求め,「銀行による貸付けが顧客にとって過剰な借入れとならないよう顧客の実態を踏まえた適切な審査態勢が構築されているか。」を問題にしている。
 そうすると,銀行等による貸付けについては,いわゆる総量規制の直接的な適用はないとしても,「銀行による貸付けが顧客にとって過剰な借入れとならないよう顧客の実態を踏まえた適切な審査態勢」を構築することなく,安易に,借入残高が年収の3分の1を超えることとなるような貸付けの契約を締結することは,「改正貸金業法の趣旨」に反するものとして,許されないというべきである。

 4 一般社団法人全国銀行協会の申し合わせ
 一般社団法人全国銀行協会は,本年3月16日,銀行による消費者向け貸付けについて,改正貸金業法の趣旨を踏まえた広告等の実施及び審査態勢等の整備をより一層徹底するという見地から,「銀行による消費者向け貸付けに係る申し合わせ」(以下「本申し合わせ」という。)を行ったことを公表した。本申し合わせの内容は次のとおりである。
 ① 配慮に欠けた広告・宣伝の抑制,例えば,銀行は改正貸金業法の趣旨を踏まえて適切な表示等を行うよう努めること,具体的には,銀行カードローンが総量規制の対象外であることや,高額の借り入れであっても年収証明書が不要であることを強調するなど,過剰な借り入れとならないための配慮に欠けた表示を行わないよう努めること,顧客に対する注意喚起など多重債務の発生抑制に努めること。
 ② 健全な消費者金融市場に向けた審査態勢などの整備,例えば,年収証明書などの顧客の情報によって,顧客の収入や返済能力等に留意するとともに,各行がそれぞれの事情に応じた創意工夫によって,健全な金融市場の形成に向けた審査態勢を構築するよう努めること。
 たしかに,本申し合わせにおいては,改正貸金業法の趣旨を踏まえた広告等の実施及び審査態勢等の整備をより一層徹底するという見地から各行が努めることが記載されており,そのこと自体は一定程度評価できる。しかし,本申し合わせは,あくまでも「申し合わせ」に過ぎず,対応については各銀行に委ねられており,このような自主規制には自ずと限界があると言わざるを得ない。また,その実効性を担保する制度も現在のところ設けられていないことからすると,過剰融資抑制のための具体的かつ客観的な基準として,万全なものかどうかは疑問が残るものと考えざるを得ない。

 5 結語
   そこで,当会としては,
(1)国は,貸金業法第13条の2等の規定を改正すること等により,貸金業者が自ら貸付けを行う場合のほか,銀行,信用金庫,信用組合等(以下「銀行等」という。)の行う貸付けに保証を付す場合についても,借入残高が年収の3分の1を超えないように総量規制の対象とすべきであり,
(2)銀行等は,少なくとも消費者金融会社による保証を付した消費者向け貸付けを行う際には,上記貸金業法の13の2の規定の趣旨を踏まえて,原則として借入残高が年収の3分の1を超えることとなるような貸付けを行わないなど,銀行等による貸付けが消費者にとって過剰な貸付けとならないように,消費者の実態を踏まえた適切な審査態勢を構築すべきであり,
(3)金融庁は,銀行等が消費者金融会社による保証を付した消費者向け貸付けを行う事例について調査するとともに,改正貸金業法の趣旨を踏まえて,原則として,借入残高が年収の3分の1を超えることとなるような貸付けを銀行等が行わないようにするよう,指針等に明記すべきである

  と考える。

2017年(平成29年)年8月9日
熊本県弁護士会
会長 宮 田 房 之