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男女共同参画を推進する宣言

2018.03.06
 私たちの社会には、さまざまな個性を持った人々が生活しています。どの人もみな、個人として尊重され、自らの個性と能力を十分に発揮する機会が確保されるべきです。ある性別であるがゆえに社会活動に法律上又は事実上の制限を受けることのないよう、それぞれの個性を生かし活躍できる社会を実現することは非常に重要です。また、性的指向や性自認による偏見や差別が問題となり顕在化している現在、いかなる性的指向や性自認であってもそれぞれの個性を生かし活躍できる社会の実現も先送りすることはできません。
 内閣府は2015(平成27)年12月25日に第4次男女共同参画基本計画を策定し、日本弁護士連合会も2013(平成25)年3月14日に第二次男女共同参画推進基本計画を策定するなど、社会において男女共同参画の視点がよりいっそう重視されるようになっています。
 また、内閣府の第4次男女共同参画基本計画においては、性的指向や性同一性障害を理由として困難な状況に置かれている場合に安心して暮らせる環境の整備を進めることがうたわれるなど、性的指向や性自認にかかわらずその個人を尊重する取組みが国レベルでも意識され、日弁連においても、近く取りまとめる第三次基本計画において「LGBTの存在」について触れられる予定である等、男女共同参画は、性の多様性の尊重をも含むものとなっています。
 当会では、2008(平成20)年1月8日、「熊本県弁護士会における男女共同参画社会の実現のためのポジティブアクションについて」が確認されましたが、その後の当会の取組みは十分であるとは言えません。
 全ての人が個人として尊重されるため、当会が主体的に、男女共同参画の実現に向けた総合的かつ統一的な取組みを行うことが必要です。また、会員が活動しやすい環境を整備するとともに、社会における多様な人々の法的ニーズに応えることは、国民の信頼を得、司法の一翼を担う弁護士・弁護士会の使命を果たすことにつながります。
 そこで当会は、男女共同参画の視点を尊重する開かれた弁護士会となるべく、下記の活動指針を実現していくことを宣言します。


1 男女共同参画を実現するための「基本計画」を整備する。
2 会務活動における政策・方針決定過程への女性会員の参画の拡大を実現する。
3 会員のワーク・ライフ・バランスを推進するため、家事・育児・介護等の負担を担う会員が会務活動に参加しやすい制度・設備を構築する。
4 セクシュアル・ハラスメント及び性別による差別的な取扱い(性的指向及び性自認による差別的な取扱いを含む)を防止するため、既存の制度の充実及び新たな制度の創設を図る。
5 男女共同参画の推進(性の多様性の尊重を含む)に関し、会員の理解を深めるため、研修・啓発活動をより一層充実させる。
6 当会における制度や慣行が男女共同参画社会の形成に及ぼす影響や、司法分野における性差別、その他男女共同参画推進に関する施策の策定に必要な調査研究を行う。

宣言の理由


1 政府・日本弁護士連合会・社会の動向
 我が国においては、男女共同参画社会の実現に向け、1999(平成11)年に男女共同参画社会基本法が制定された。2003(平成15)年に男女共同参画推進本部により「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度になるよう期待する」との目標が設定され、男女共同参画基本計画(2015(平成27)年12月25日には第4次男女共同参画基本計画が策定)や成長戦略等を通じたポジティブ・アクション(積極的改善措置)をはじめとする様々な取組みが進められてきた。さらに、2015(平成27)年9月4日には女性の職業生活における活躍の推進に関する法律が公布・施行されている。
 日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)においては、2007(平成19)年6月14日に男女共同参画推進本部が設置され、男女共同参画推進基本計画(2008(平成20)年3月13日に日本弁護士連合会男女共同参画推進基本計画、2013(平成25)年3月14日に第二次日本弁護士連合会男女共同参画推進基本計画)が策定され、これに基づく取組みが進められてきた。2018(平成30)年には、その達成状況及び現状等を踏まえ、第三次日本弁護士連合会男女共同参画推進基本計画が策定される予定である。
 しかし、日本の2017(平成29)年のジェンダー・ギャップ指数(GGI)は、0.657と144か国中114位であり、男女間の格差が先進国の中で最低水準である。男女共同参画社会の形成の促進を図っていくため、さらに実効性のある取組みが求められている。
 また、内閣府の第4次男女共同参画基本計画においては、性的指向や性同一性障害を理由として困難な状況に置かれている場合に安心して暮らせる環境の整備を進めることがうたわれるなど、性的指向や性自認にかかわらずその個人を尊重する取組みが国レベルでも意識されるようになっている。自治体においても、「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」が制定され、また、企業でも、生命保険の受取人に同性パートナーの指定を認める等の取組みを進めるところが増えるなど、社会の意識と実情に急速な進展が見られる。
 日弁連においては、LGBTの権利に関するプロジェクトチームが両性の平等に関する委員会内に設置されているほか、近く取りまとめられる第三次基本計画において「LGBTの存在」について触れられる予定である。

2 当会におけるこれまでの取組み
 当会においては、2008(平成20)年1月8日に「熊本県弁護士会における男女共同参画社会の実現のためのポジティブアクションについて」が確認された。これに基づき、同年、セクシュアル・ハラスメントの禁止に関する規則の制定・相談窓口が設置されたほか、一部の研修・会務等の開催時間の配慮等がなされた。
 その後も2014(平成26)年に育児期間中の会費免除に関する規則、2016(平成28)年に熊本県弁護士会女性社外役員候補者名簿の作成及び提供に関する規則が制定されるなど、男女共同参画推進に向けた取組みが進められてきた。
 しかし、政府や日弁連等の動向と比較すると、当会の取組みは、会務活動における政策・方針決定過程への女性会員の参画や、会員のワーク・ライフ・バランスの面等において、未だ十分なものとは言えない。女性会員の数と割合が増加している現状に鑑みれば、従来の固定的性別役割分担意識にとらわれることなく、男女共同参画を推進していくことがますます重要である。

3 当会としての今後の課題と目標
 当会では、2018(平成30)年2月1日時点での会内女性割合が約15%(会員数273名 女性会員40名)であるなか、2017(平成29)年度の役職者に占める女性会員の数と割合は、執行部(会長・副会長及び主任)は、過去最高の3名(37.5%)であるものの、これまでの推移(2016年 12.5%、2015年 0%、2014年 12.5%、2013年 0%)からすれば、現在の状況が安定的に維持できる状況にはない。常議員0名(0%)及び委員長2名(5%)に至っては、女性会員の数と割合は極めて低い値となっている。人権擁護と社会的正義の実現を責務とする弁護士が、男女共同参画を推進し社会の中で存在感を示すという観点からも、会務活動への女性会員の参画を拡大していくことが重要である。そのためには、会務活動への参加の障壁となっている事由の調査・分析が不可欠であり、その上で、施策を整備していくことが必要である。
 また、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を図ることは、会員が個人として尊重され、自らの個性と能力を十分に発揮するための基礎であり、男女共同参画の前提となるものである。そこで、家事・育児・介護等の負担を担う会員が、業務の継続や会務活動・研修等に参加しやすい制度・設備の構築に取り組んでいく必要がある。
 さらに、当会では、2008(平成20)年に「セクシュアル・ハラスメントの禁止に関する規則」を施行し、セクシュアル・ハラスメントや性別による差別的取扱の防止に向けて取り組んできた。苦情相談件数は少ないとはいえ、未だ相談及び調査制度が十分に活用されていない可能性もあることから、利用しやすく、かつ、実効的な制度になるよう、会員や各事務所事務員等への周知並びに既存の制度の充実を図る必要がある。
 加えて、性的指向は様々であり、自己の性に違和がある人もいるなど性は多様であり、いかなる性的指向や性自認であっても個人として尊重されることが真の男女共同参画である。この点も含め、会員の理解を深めるために、研修・啓発活動を実施し、必要な配慮や制度の構築について検討していくことが必要である。
 そこで、当会では、真の男女平等及び個性の尊重を実現し、男女共同参画を推進していくための「基本計画」を整備し、総合的かつ統一的な取組みを進めると共に、様々な施策の整備や制度の充実を図るべく、本宣言案を提案する。



参考
・産前産後期間会費免除に関する規則
 2006(平成18)年3月16日制定
・熊本県弁護士会における男女共同参画社会の実現のためのポジティブアクションについて
 2008(平成20)年1月8日
・セクシュアル・ハラスメントの禁止に関する規則
 2008(平成20)年6月19日制定
・育児期間中の会費免除に関する規則
 2014(平成26)年3月19日制定
・熊本県弁護士会女性社外役員候補者名簿の作成及び提供に関する規則
 2016(平成28)年8月18日制定