「谷間世代」の不公平・不平等の速やかな是正を求める会長声明
2018.03.19
- 司法修習生に給与を支給する給費制は,司法試験の後に,裁判官・検察官・弁護士を目指す者が同じ修習を受ける統一司法修習制度とともに,日本国憲法施行と同時に開始され戦後60年以上にわたり存続してきた。
それは,日本国憲法下においては,法の支配を実現し,国民の権利を擁護する司法の役割が強化され,法曹たる裁判官,検察官,弁護士はそれぞれ立場は違うものの,立法・行政に並ぶ三権の一翼である司法をともに担う存在であることから,その役割を果たすために必要な高度な能力と高い職業倫理を備える法曹を国の責任で養成することが,ひいては国民の権利を擁護し社会正義の実現に資するという考えに基づくものであった。
そして,このような司法修習制度の目的を達するために,国は,司法修習生に対し修習専念義務を課し,修習に専念できるに足る生活保障として給費制を採用したのであった。 - ところが,給費制は,2011年,平成の司法制度改革の中で財政的事情を理由に廃止され,司法修習生の修習に必要な費用を最高裁判所が貸し付ける制度に変わった。これにより,司法修習生は,修習期間中においても,経済的負担,不安を抱えることになり,安心して司法修習に専念することが困難となった。また,法曹になるための経済的負担が重くなったことは法曹志願者を激減させる重大な要因となった。
このような事態を受け,2017年4月19日,裁判所法改正により,司法修習生に対して,基本給付金月額13万5000円,住居が必要となる者にはさらに住宅給付金月額3万5000円を支給する修習給付金制度が創設された。同制度の創設は,司法修習生の無給の状態を改善した点で大きな前進ではあるものの,修習に専念できる十分な金額かどうか問題があることから,今後も継続的な検討や改善が必要である。
しかし,現在,早急に検討されるべき課題は,2011年度から2016年度に採用された,制度の狭間で給費を受けることができなかった新第65期から第70期までの司法修習終了者,いわゆる「谷間世代」の者たちに対する是正策についてである。修習給付金を創設する上記の裁判所法改正の審議過程においても,与野党を問わず多数の国会議員からは,「谷間世代」の者たちに対する是正の必要性が訴えられていた。にもかかわらず,これまで何ら具体的な是正策が講じられず,不公平・不平等が生じている。 - この「谷間世代」の者たちも,修習専念義務を負って司法修習を終え,他の世代の法曹と同様,司法の担い手として公共的・社会的活動を行っている。一方で,「谷間世代」の多くが,大学,法科大学院時代の奨学金を抱えており,今後,修習費用の貸与金(平均約300万円)の返還が始まることとなれば,経済的事情等により,その公共的・社会的活動が阻害されるおそれがある。「谷間世代」の法曹(裁判官・検察官・弁護士)は約1万1000人に達し,全法曹(前同)約4万3000人の約4分の1を占めており,貸与金の返還が司法,ひいては国民に与える影響は看過できないものである。
「谷間世代」の法曹が,その能力と意欲をいかんなく発揮し,より幅広い分野で国民の権利擁護のために活躍できるようにするためには,貸与金の返還という経済的負担から解放することが必要不可欠である。 - 以上の次第であるので,当会は,最高裁判所,法務省,国会に対して,「谷間世代」の法曹(裁判官・検察官・弁護士)の経済的負担が旧第65期以前及び第71期以後の司法修習終了者に比して著しく重くなったままであるという不公平・不平等な事態が発生していることについて,一律給付などの方法によりこれを是正する措置を講ずることを求める。また,併せて,新第65期司法修習終了者(裁判官・検察官・弁護士)の貸与金返還が開始する本年7月25日までに上記の措置が講じられない場合は,上記是正措置が講じられるまでの間,貸与金の返還期限を一律猶予する措置を講ずることを求める。
2018年(平成30年)3月19日
熊本県弁護士会
会 長 宮 田 房 之