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「消費者契約法の一部を改正する法律案」に対する会長声明

2018.04.12

 2018年(平成30年)3月2日、消費者契約法の一部を改正する法律案(以下「本改正案」という。)について閣議決定がなされた。
 本改正案は、消費者契約法の改正法案の速やかな策定と国会への提出を求めた内閣府消費者委員会の2017年(平成29年)8月8日付答申書(以下「委員会答申」という。)に沿っている点では評価できるものの、必ずしも委員会答申の趣旨を十分に踏まえたものではない。
 当会は、2018年(平成30年)2月14日に「消費者契約法専門調査会報告書に関する意見書」を公表したところであるが、本改正案の審議にあたっては、下記のとおり、委員会答申及び当会の意見の趣旨を十分に踏まえ、次のとおり修正が行われるべきである。

1 非作出型つけ込み型勧誘行為における取消権を導入すべきである。
 本改正案においては、委員会答申において喫緊の課題であるとして付言され、当会においてもその導入を強く求めてきた高齢者や若年者などの判断力の不足等に乗じてこれらの者に対して過大な不利益を生じさせる契約の勧誘行為が行われた場合(非作出型つけ込み型勧誘行為)に対する取消権の創設規定が設けられていない。非作出型つけ込み型勧誘行為に対する取消権を付与すべき規定を設けるべきである。

2 困惑類型の追加について「社会生活上の経験が乏しいことから」との要件は削除等すべきである。
 委員会答申を受けて困惑類型として設けられた2つの勧誘行為のいずれについても「社会生活上の経験に乏しいことから」という文言が付されたことから、救済対象のほとんどが若年者に限定されかねず、高齢者等をその対象から除外してしまうことにもなりかねない。若年者以外の高齢者や障がい者等の脆弱な消費者の消費者被害数は高水準で推移しており、これらに対する対策は、喫急の課題である。この文言は削除するか、「判断力又は社会生活上の経験が乏しいこと」という修正がなされるべきである。
 さらに上記の文言に加えて、取消し得るのは「『過大な』不安を抱いていることを知りながら」勧誘行為をおこなった場合等に限られているが、これでは救済対象が限定され、本来救済すべきものが救済されなくなることになりかねない。「過大な」等の取消を限定する要件は削除し、脆弱な消費者が幅広く保護を受けられるようにすべきである。

3 「平均的な損害」について推定規定を設けるべきである。
 委員会答申では、消費者契約法9条1号の「平均的な損害の額」に関して、消費者の立証責任軽減のために推定規定の導入が提言されていたが、本改正案にはこの推定規定が含まれていない。この委員会答申は、消費者側が「平均的な損害」の主張立証責任を負うとの最高裁判決を前提としつつ、事業者側が立証のための必要な資料を保有していることが一般的であることを踏まえて提言されたものであり、法9条1号の規定を実効化するために必要不可欠なものである。この推定規定を立法化しないということは、委員会答申の趣旨を大きく損なうものと言わざるを得ない。

 したがって、推定規定を導入すべきである。

2018年(平成30年)4月12日
熊本県弁護士会
会長 猿 渡 健 司