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「松橋事件」特別抗告審における特別抗告棄却決定に関する会長声明

2018.10.15

 2018年(平成30年)10月10日,最高裁判所は,いわゆる「松橋事件」に関する再審請求事件の特別抗告審において,熊本地方裁判所の再審開始決定を維持した福岡高等裁判所の即時抗告棄却決定を維持し,検察官の特別抗告を棄却する決定をした。当会は,本決定を高く評価するものである。
 松橋事件は,被告人が1985年(昭和60年)1月6日に被害者宅において,切出小刀の柄と刃の接合部分にシャツから切り取った布を巻き付けるなどしたうえで同切出小刀で被害者を殺害したとして,逮捕・起訴された事件である。
 被告人は,任意の長時間にわたる取調べを受け,ポリグラフ検査で陽性反応が出たと捜査官から告げられた後,自白に転じ,逮捕された。被告人と犯行を直接結びつける証拠は自白しかなかったが,被告人は起訴された。被告人は公判廷で無罪を主張したが,確定第一審は,被告人の捜査段階における自白の任意性・信用性を認め,懲役13年の有罪判決を言い渡した。その後,控訴及び上告がなされたが,1990年(平成2年)1月26日,有罪判決が確定した。
 被告人は,服役後の2012年(平成24年)3月12日,熊本地方裁判所に再審請求を行った。弁護人が提出した新証拠の中には,検察官から開示を受けた証拠も含まれていた。その中でも,被告人が切出小刀に巻き付けるために左袖部分の一部を切り取り,その切り取った一部と左袖部分を犯行後に一緒に焼却したと自白していたシャツの左袖部分を含む4片は,同4片をつなぎ合わせるとシャツを完全に復元できたことから,重要な新証拠であった。
 熊本地方裁判所は,2016年(平成28年)6月30日,弁護人が提出した上記シャツ4片などの新証拠の新規性,明白性を認め,被告人の自白の信用性を否定し,再審を開始する決定をしたが,同決定に対して,検察官が即時抗告を申し立てた。
 福岡高等裁判所は,2017年(平成29年)11月29日,検察官の即時抗告を棄却する決定をしたが,同決定に対し,検察官が特別抗告を申し立てた。
 そして,先日,最高裁判所が再審開始決定を維持し,再審請求から約6年7か月の月日を経て,ようやく再審開始が確定したのである。
 被告人は今年85歳の高齢であり,被告人が生きているうちにえん罪であることを明らかにして,救済をなすことが急務である。そのため,当会は,速やかに再審公判が開始され,再審公判において検察官が有罪立証をすることなく速やかに無罪判決が出されることを強く望む。
 また,当会は,その必要性がより明らかとなった任意段階を含む取調べ全過程の可視化,証拠の全面開示等えん罪を防止するための制度改革の実現,及び,審理の迅速化等の再審法制の改善・改正に向けて全力を尽くす決意である。

2018年(平成30年)10月15日

熊本県弁護士会         

 会 長  猿 渡 健 司