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「特定複合観光施設区域整備法」(いわゆる「カジノ解禁実施法」)成立に関する会長声明

2019.02.15
 2018年(平成30年)7月20日,特定複合観光施設区域整備法(以下「カジノ解禁実施法」という。)が参議院本会議で可決し成立した。
 当会は,2014年(平成26年)10月21日に,「「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長声明」を,2017年(平成29年)2月15日に,「「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(いわゆる「カジノ解禁推進法」)の成立に抗議し,廃止を求める会長声明」を発表し,一貫してカジノ解禁に反対してきた。
 これまで,公営ギャンブルの導入・存続においては,目的の公益性,運営主体等の性格,収益の扱い,射幸性の程度,公的監督及び導入による弊害の防止等に関して,常に慎重な検討がなされてきた。しかし,カジノ解禁実施法の審議時間は衆参両院合わせて40時間ほどにとどまり,251条という膨大な条文数も踏まえると,十分な議論を経て成立したものとはおよそ言いがたい。
 カジノ解禁実施法は,民間事業者が運営するギャンブルを合法化するという重大な効果を生じさせるものであるが,これまで上記の各会長声明において当会が示してきた懸念を払拭するものではなく,これに対する具体的な解決方法は未だもって提示されぬままである。

(1)依存症・多重債務対策の不十分さ
?  カジノ解禁実施法成立以前から,他のギャンブルについても,依存症対策の必要性が叫ばれてきた。
?  しかし,現在においても,ギャンブルを理由とした借入れを原因とする自己破産,個人再生の申立ては後を絶たず,十分な依存症対策,多重債務対策がなされていないことは周知の事実である。
?  カジノ解禁実施法においては,入場回数の制限及び入場料の設定により依存症対策を講じていると謳われてはいる。
?  しかし,同法の定める入場回数の規制については,週に2~3回の入場が可能である時点で,対策として不十分なものであることは明らかである。特にカジノは24時間営業が可能であるため,週3回の入場であっても,既存のギャンブル施設と同等ないしそれ以上の時間を施設内で過ごすことが可能である。
?  また,同法が定める6000円という入場料は,それをもって,入場を思いとどまらせるほど高額だとは言えないばかりか,逆に,入場料が存在することにより,入場者に対し,入場した以上は,入場料を取り返そうとする射幸心を与えるものであり,後述の特定資金貸付とあいまって,多重債務問題の原因となりかねないものですらある。
?  このような場当たり的かつ不十分な依存症・多重債務対策のもとでのカジノ解禁は,2018年(平成30年)5月に成立した,ギャンブル等依存症対策基本法の趣旨とも完全に相反するものであり,法秩序全体としても著しく整合性を欠く。

(2)特定資金貸付業務の危険性
 ア カジノ解禁実施法は「特定資金貸付業務」として,「カジノ管理委員会規則で定める金額以上の金銭を当該カジノ事業者の管理する口座に預け入れている」場合にカジノ業者が貸付けを行うことができるとしたうえで,同業務においては,年収の3分の1を超える貸付けを禁止する貸金業法の総量規制が及ばないことを定めている。
 イ カジノ場内で貸付けを受けることができるとなると,ギャンブルにより冷静さを失った入場者が,返済可能限度を超える過剰な貸付けを受けてしまう危険性が大きいということは論を俟たないところである。
???  多重債務の原因として代表的なものであるギャンブルの現場において,多重債務を防止するための貸金業法の総量規制が適用されないということ自体,カジノ解禁実施法が利用者の犠牲を前提とした制度設計になっていることの証左であるというべきである。 
 ウ それにもかかわらず,カジノ解禁実施法においては,貸付制限に関して,カジノ管理委員会規則により,証拠金の額及び貸付限度額が決定されると定められたのみであり,特定資金貸付制度による消費者に対する影響の有無及びその程度についても,他の事項と同様に,十分に議論がなされたとは言い難い。
 エ そもそも,最高裁判所において,ギャンブルを目的とした金銭消費貸借は公序良俗に反し,無効であると判示されている(最一小判昭和61年9月4日・裁判集民事148号417頁等)にもかかわらず,国家が率先して,ギャンブルを目的とした貸付を推進することは,法的にも,倫理的にも是認されるべきものではない。
 オ 以上のように,特定資金貸付業務は,上記最高裁判例に反し,かつ国民の健全な生活を大きく脅かすものであることから,当該業務の存在を前提とするカジノ解禁実施法は,すみやかに廃止されるべきである。

(3)反社会的勢力等への対策の不十分さ
?  歴史的に見ても,ギャンブルが暴力団等の反社会的勢力の資金源となっていることは多く,カジノ解禁に際して,反社会的勢力の排除が大前提となることは改めて言うまでもない。
?  また,今日においては,カジノが反社会的勢力等のマネー・ローンダリングに用いられる危険性も指摘されており,この点の対策も欠くことはできない。
?  しかし,カジノ解禁実施法においては,カジノ事業者は,暴力団員又は暴力団員でなくなった日から起算して5年を経過しない者をカジノ施設に入場させてはならないと規定されているが,現実的かつ効果的な確認方法が検討されているわけではなく,上記の問題への対策は十分に取られていない。

 以上のように,カジノ解禁実施法は,現状においても,解決不能かつ重大な問題を多数抱えており,運用の方法によって問題の発生を抑えることはもはや不可能であると言わざるをえない。また,その施行により,すでに我が国で大きな社会問題となっているギャンブル依存症に関する問題を一層深刻化させることは明らかである。
 したがって,当会は,カジノ解禁実施法の即時の廃止を求めるとともに,すでに顕在化しているギャンブル依存症に関する問題に関しても,適切な法規制による依存症対策・多重債務者対策を行うよう求めるものである。

2019年(平成31年)2月15日
熊本県弁護士会
会長 猿 渡 健 司