「松橋事件」再審無罪判決に関する会長声明
本日,熊本地方裁判所は,いわゆる「松橋事件」に関する再審公判において,殺人事件について無罪判決を言い渡した。当会は,これまで,2016年(平成28年)6月30日付けで「『松橋事件』再審開始決定に関する会長声明」を,2017年(平成29年)11月29日付けで「『松橋事件』即時抗告審における即時抗告棄却決定に関する会長声明」を,2018年(平成30年)10月15日付けで「『松橋事件』特別抗告審における特別抗告棄却決定に関する会長声明」を発表し,宮田浩喜さんが生きているうちにえん罪であることを明らかにして救済をなすことが急務である旨を繰り返し訴えてきたところであり,本日の無罪判決を高く評価する。
松橋事件は,宮田さんが1985年(昭和60年)1月6日に被害者宅において,切出小刀の柄と刃の接合部分にシャツから切り取った布を巻き付けるなどしたうえで同切出小刀で被害者を殺害したとして,逮捕・起訴された事件である。
宮田さんは,任意の長時間にわたる取調べを受け,ポリグラフ検査で陽性反応が出たと捜査官から告げられた後,自白に転じ,逮捕された。宮田さんと犯行を直接結びつける証拠は自白しかなかったが,宮田さんは起訴された。宮田さんは公判廷で無罪を主張したが,確定第一審は,宮田さんの捜査段階における自白の任意性・信用性を認め,懲役13年の有罪判決を言い渡した。その後,控訴及び上告がなされたが,1990年(平成2年)1月26日,有罪判決が確定した。宮田さんは,服役後の2012年(平成24年)3月12日,熊本地方裁判所に再審請求を行った。弁護人が提出した新証拠の中には,検察官から新たに開示を受けた証拠も含まれていた。その中でも,宮田さんが切出小刀に巻き付けるために左袖部分の一部を切り取り,その切り取った一部と左袖部分を犯行後に一緒に焼却したと自白していたシャツの左袖部分を含む4片は,同4片をつなぎ合わせるとシャツを完全に復元できたことから,重要な新証拠であった。
熊本地方裁判所は,弁護人が提出した上記シャツ4片などの新証拠の新規性,明白性を認め,宮田さんの自白の信用性を否定し,再審を開始する決定をした。その後,検察官は即時抗告を申し立てたが福岡高等裁判所において棄却され,さらに特別抗告を申し立てたが最高裁判所において棄却され,再審請求から約6年7か月の月日を経て再審開始が確定した。
そして,本日,再審公判において無罪判決が言い渡され,事件発生から34年を経て,ようやく宮田さんのえん罪が明らかにされたのである。
宮田さんは現在85歳と高齢であり,宮田さんが生きているうちにえん罪であることを確定させ,救済をなすことが急務である。そのため,当会は,検察官に対し,控訴することなく,速やかに無罪判決を確定させるよう強く求める。
また,当会は,その必要性がより明らかとなった任意段階を含む取調べ全過程の可視化,証拠の全面開示等えん罪を防止するための制度改革の実現,及び,審理の迅速化等の再審法制の改善・改正に向けて全力を尽くす決意である。
2019年(平成31年)3月28日
熊本県弁護士会
会 長 猿 渡 健 司