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検察官の定年延長に関する閣議決定の撤回を求め、検察庁法の一部改正に反対する会長声明

2020.05.14

 本年1月31日、同年2月7日に定年を迎える予定であった東京高等検察庁検事長の定年(63歳)を、国家公務員法81条の3第1項を根拠に、半年間延長するとの閣議決定が行われた。

 また、本年3月13日、検察庁法改正法案を含む国家公務員法等の一部を改正する法律案が通常国会に提出された。この改正案は、全ての検察官の定年を現行の63歳から65歳に段階的に引き上げ、63歳の段階でいわゆる役職定年制を適用した上で、内閣又は法務大臣が「職務の遂行上の特別の事情を勘案し」「公務の運営に著しい支障が生ずる」と認めるときは、役職定年を超えて、あるいは定年さえも超えて当該官職で勤務させることができるようにするものである。

 現行法上、検察官の定年については、国家公務員法の適用を受けないものとされ、検察庁法22条において、検察官の定年が裁量の余地なく法定されている。これは、憲法の基本原理である権力分立に基礎を置くもので、司法権独立(憲法76条)の趣旨である司法権(刑罰権)の適正な実現を図るためのものである。

 すなわち、検察官は、強大な捜査権を有し、起訴権限を独占する立場にあって、準司法的作用を有している。そして、犯罪の嫌疑があれば国会議員や大臣さえも捜査の対象とする。従って、検察官は政治的に中立公正でなければならず、検察官人事への政治の恣意的な介入を排除し、検察官の独立性を確保しなくてはならない。

 そして、検察庁法32条の2は、検察庁法22条が検察官の職務と責任の特殊性に基づく国家公務員法の特例であることを明確にしている。従って、国家公務員法81条の3第1項が検察官に適用される余地は無く、検察官に定年延長は無いとされていたものであり、これは一貫した政府見解でもあった。しかるに、今回の閣議決定は、国会の立法権の軽視、権力分立、法の支配の安定のいずれの見地からも問題である。

 さらに、今回の改正案が成立することになれば、内閣が、検事総長、次長検事、検事長について、法定の定年を超えて恣意的にその役職に在任させることができるようになり、検事正を含む検事、副検事についても、法務大臣の裁量で同様の措置をとることができるようになる。

 すなわち、内閣及び法務大臣の裁量によって、検察官の人事に強力に介入をすることが可能となるものであり、検察官の独立性、公正性を揺るがす事態を招きかねない。また、このような疑念を生じさせること自体、検察官に対する国民の信頼を著しく損なうものである。

 ましてや、今般の新型インフルエンザ等対策特別措置法上の緊急事態宣言が継続している状況下において、かくも重大な問題性を孕む本法案の成立を急ぐ合理的な理由は全く無い。

 よって、当会は、本年1月31日の東京高等検察庁検事長の定年を半年間延長するとの閣議決定の撤回を求めるとともに、検察官の定年ないし勤務延長を内容とする国家公務員法等の一部を改正する法律案中の検察官の定年ないし勤務延長に係る特例措置の部分に反対するものである。

以上

令和2年5月14日
熊本県弁護士会
会 長  鹿 瀬 島 正 剛