低賃金労働者の生活を支え,地域経済を活性化させるために最低賃金額の引上げと中小企業支援強化並びに全国一律最低賃金制度の実施を求める会長声明
厚生労働大臣は,本年6月26日,中央最低賃金審議会に対し,2020年度地域別最低賃金額改定の目安についての諮問を行う予定であり,本年7月ころには,同審議会から,答申が行われる見込みである。昨年,同審議会は,全国加重平均27円の引上げ(全国加重平均額901円)を答申し,これに基づき各地の地域別最低賃金審議会において地域別最低賃金額が決定された。時給901円という水準は,1日8時間,週40時間働いたとしても,月収約15万7000円,年収約188万円にしかならない。
今般,政府の緊急事態宣言により,経営基盤が脆弱な多くの中小企業が倒産,廃業に追い込まれる懸念も広がる中,最低賃金の引上げが企業経営に与える影響を重視して引上げを抑制すべきという議論もある。
しかし,労働者の生活を守り,新型コロナウイルス感染症に向き合いながら経済を活性化させるためにも,最低賃金額の引上げを後退させてはならない。多くの非正規雇用労働者をはじめとする最低賃金付近の低賃金労働を強いられている労働者は,もともと日々生活するだけで精一杯で,緊急事態に対応するための十分な貯蓄をすることができていない。ここに根本的な問題がある。また,今般の緊急事態下において,小売店の店員,運送配達員,福祉・介護サービス従事者等の社会全体のライフラインを支える労働者の中には,最低賃金付近の低賃金で働く労働者が多数存在する。これらの労働者の労働に報い,その生活を支え,社会全体のライフラインを維持していくためにも最低賃金の引上げは必要である。
一方,最低賃金の引上げによって経営に大きな影響を受ける中小企業に対しては,新型コロナウイルス感染拡大に備えた支援策が拡充されているところであるが,政府は,長期的継続的に中小企業支援策を強化すべきであり,最低賃金の引上げが困難な中小企業のための社会保険料の減免や減税,補助金支給等の中小企業支援策の検討を進めるべきである。また,中小企業の生産性を向上させるための施策を有機的に組み合わせることや,これまで以上に私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律や下請代金支払遅延等防止法を積極的に運用し,中小企業とその取引先企業との間で公正な取引が確保されるよう努めることも重要である。
さらに,最低賃金の地域間格差が依然として大きく,ますます拡大していることも見過ごすことのできない重大な問題である。2019年の最低賃金は,最も高い東京都で時給1013円であるのに対し,熊本県を含む15県では最も低い時給790円であり,233円もの開きがあった。最低賃金の高低と人口の転入出には強い相関関係があり,最低賃金の低い地方の経済が停滞し,地域間の格差が固定,拡大している。都市部への労働力の集中を緩和し,地域に労働力を確保することは,地域経済の活性化のみならず,都市部での一極集中から来る様々なリスクを分散する上でも有用と言える。政府は早急に,全国一律最低賃金制度の実現に向けた検討を開始すべきである。
以上より,当会は,中央最低賃金審議会に対しては,地域格差を縮小しながら全国すべての地域において最低賃金の引上げを答申するよう求めるとともに,熊本地方最低賃金審議会に対しては,労働者の健康で文化的な生活を確保し,これにより地域経済の健全な発展を促すためにも,最低賃金を大幅に引き上げる答申を行うよう求める。
2020年(令和2年)6月30日
熊本県弁護士会
会長 鹿瀬島 正剛