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川辺川に「新たな流水型ダム」を求める熊本県知事の表明に対する会長声明

2020.12.15

 本年11月19日,蒲島郁夫熊本県知事は令和2年7月豪雨災害を受けて,球磨川流域の治水の方向性について,現行の貯留型の川辺川ダム計画を完全に廃止したうえで,「命と環境の両立」を図る「緑の流域治水」の1つとして「新たな流水型のダム」を国に求めることを表明した。そして翌20日,蒲島知事の要請を受けた赤羽一嘉国土交通大臣は「スピード感を持って検討に入る。」と表明した。
 令和2年7月豪雨災害は,熊本県において令和2年12月3日現在で死者65名,行方不明者2名,住家の全壊1491棟,半壊3096棟等の甚大な被害を発生させ,今なお多数の被災者が住居の片付けや土砂の除去などに追われ,仮設住宅等での生活を余儀なくされている。
 この被害を受けて国や熊本県は令和2年7月球磨川豪雨検証委員会を開催したが,そこではダムが造られていた場合の効果の大きさなどダムの問題について多くの議論がなされた。しかしながら,平成20年9月に蒲島知事が「ダムによらない治水対策を追求すべきである」と表明して以降,球磨川流域の治水対策は10年以上にわたって具体的かつ効果的な治水計画を策定して実行するということがなされてこなかった。今回の豪雨災害によって多数の死者を含む甚大な被害が生じた要因については,この点が踏まえられるべきであり,決してダム問題に集約されてはならない。
 そして,蒲島知事の表明の中では,「新たな流水型のダム」が球磨川流域の治水にもたらす効果の程度やその科学的根拠は具体的に示されなかった。日本において流水型ダムは採用例が少なく,これを川辺川ダムに採用した場合には他に例をみない巨大な流水型ダムになることが予想される。そのため,その治水効果や環境に与える影響については参考となるデータが少ない。今回の豪雨災害によって多数の死者を含む甚大な被害が生じたことを踏まえ,「新たな流水型のダム」の建設が本当に流域住民の命を守るために役立つのかが厳しく問われなければならない。
 また,蒲島知事は今回の表明にあたって各種団体等からダム建設の賛否を問うような意見聴取会を矢継ぎ早に開催したが,事前の情報公開や流域住民が意見を述べる機会が不十分で住民参加による合意形成過程として適切とは言いがたいほか,ダムの賛否で球磨川流域住民の分断を再び招きかねない方法であり,意見聴取方法として問題があったというべきである。
 近年の地球温暖化等の気候変動の中で,全国各地で激甚な被害をもたらす水災害が毎年のように発生していることから,国土交通省は河川管理者等による治水に加え,あらゆる関係者(国・都道府県・市町村・企業・住民等)により流域全体で治水を行う「流域治水」への転換を図っている。川辺川ダム計画は,ダムによらない治水を望む「民意」により白紙撤回された経緯があることなどを踏まえると,川辺川・球磨川の「流域治水」のあり方は,流域住民の意向を最大限に汲んだものでなければならない。
 よって,当会は,熊本県及び国に対し,治水効果や環境影響が不明確な「新たな流水型のダム」の建設を拙速に推し進めることなく,その建設の必要性の検討を,科学的根拠を踏まえて流域住民等と共に丁寧に行うよう求める。

2020年(令和2年)12月15日
熊本県弁護士会
 会 長  鹿瀬島 正 剛