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半年後に迫る成年年齢引下げに伴う若年消費者被害の拡大防止に向けた実効性のある施策を直ちに実現することを求める会長声明

2021.10.14

1. 民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げる「民法の一部を改正する法律」(平成30年法律第59号。以下「本法律」という。)の2022年4月1日の施行日まで既に半年を切った。
2. 民法の成年年齢引下げについての2009年10月の法制審議会の意見は,成年年齢の18歳への引下げを適当としながらも,その条件として,①若年者の自立を促すような施策や消費者被害の拡大のおそれを解決する施策が実現されること,②施策の効果が十分に発揮されること,③施策の効果が国民の意識として現れることを掲げていた。
 この意見を受けて2018年の通常国会に法案が提出されたが,同国会での審議において参考人の多くが認めたように,条件整備のほとんどがいまだ達成されていなかったため,本法律の施行日は,成立後3年10か月という異例の長期の準備期間をおいた2022年4月1日とされた。
3. また,本法律成立に際しては,参議院法務委員会において全会一致で附帯決議がなされ,そこでは,①知識,経験,判断力の不足など消費者が合理的な判断をすることができない事情を不当に利用して勧誘し契約を締結させた場合における消費者の取消権(いわゆるつけ込み型不当勧誘取消権)を創設すること(法成立後2年以内),②若年者の消費者被害を防止し救済を図るために必要な法整備を行うこと(法成立後2年以内),③マルチ商法等への対策について検討し,必要な措置を講ずること,④消費者教育の充実を図ること,⑤18歳,19歳の若年者への周知徹底や社会的周知のための国民キャンペーン実施を検討すること,⑥施行日までに措置の実施,効果,国民への浸透について検討し,その状況を公表することなどが求められた。
4. しかしながら,成立から3年4か月が経過し,施行まで半年を切った現時点においても,上記のいずれの施策もいまだに十分に実施されているとは到底言い難い。
 特に,18歳,19歳の若者が未成年者取消権を喪失することによる若年者の消費者被害拡大に対応する施策は急務であるが,必要不可欠な施策であるつけ込み型不当勧誘取消権の創設は,附帯決議に明示された期限を既に経過しているにもかかわらず,その目途も立っていない。
 また,消費者教育についても,「若年者への消費者教育の推進に関するアクションプログラム」等は実施されているものの,消費者被害の予防につながる実践的な消費者教育が全国的に十分に行われているとは言えず,さらに,成年年齢引下げ自体の周知はされていても,その弊害としての未成年者取消権の喪失による消費者被害拡大のおそれについての周知徹底はなされているとは言い難い。
5. 当会は,2017年5月10日に,「民法の成年年齢の引下げについては,より十分な時間をかけ,条件整備を含めた国民的議論を経て決定されなければならないと考えることから,これが実現していない現時点において,民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げることには反対する。」旨の会長声明を発している。
 当会は,上記状況を踏まえ,半年後に迫る施行を前に,改めて,国に対し,前記附帯決議に示されたような成年年齢引下げに伴う弊害防止のための実効性ある施策を緊急に実現することを求めるものである。

以上
2021(令和3)年10月14日
熊本県弁護士会 会長  原  彰 宏