旧優生保護法不妊手術被害者の早期・全面的救済を求める会長声明
旧優生保護法の下で不妊手術を強制された被害者らが国を訴えた訴訟において,令和4年2月22日に大阪高等裁判所が,次いで同年3月11日に東京高等裁判所が,それぞれ被害者らの請求を認容する判決を言い渡した。これらの判決は,被害者救済に向けた画期的なものである。
この問題については,熊本を含む8地裁で,25名の被害者らが国に対して賠償を求めて提訴している。すでに判決のあった5地裁では,旧優生保護法は違憲としながら,いずれも除斥期間を形式的に適用して請求を認めなかった。しかし,大阪高等裁判所と東京高等裁判所は,除斥期間の適用を制限して第一審の判決を覆し,国に対し賠償を命じる逆転の判決を言い渡した。
大阪高等裁判所は,本件の権利侵害について,「身体的機能に対する侵襲によるもののみに限定されるものではなく,旧優生保護法の下,一方的に「不良」との認定がされたに等しく,非人道的かつ差別的な烙印を押されたともいうべき状態に置かれ,個人の尊厳が著しく損なわれたことも,違法な立法行為による権利侵害の一部を構成する」として権利侵害が長年にわたって継続していたことを認め,障がい者が長年にわたって社会的に抑圧されてきた実態を正面から認定した。また,配偶者に対する損害も認めた。これらの点において,高く評価すべき内容である。
東京高等裁判所は,同様に,被害の実態を認めて国の責任を認めたうえで,旧優生保護法による被害の実態を直視し,強度の人権侵害により二重,三重にも及ぶ苦痛を与えてきたこと,国は障がい者等に対する差別・偏見を正当化し浸透させたこと,憲法違反の施策によって生じた被害に対し憲法17条に基づいて救済を求めている訴訟で憲法の下位規範である民法を無条件に適用するのは慎重であるべきこと,国が被害者に対して被害に関する情報整備を行ってこなかったこと等をもって,除斥期間を適用することは著しく正義・公平の理念に反すると判断して,平成31年4月24日のいわゆる一時金支給法施行から少なくとも5年間は除斥期間の効果は発生しないとした。
東京高等裁判所の判決は,全国の原告らのみでなく,未だ提訴できないでいる全国の被害者へ,被害回復の道を大きく開く枠組みを示したと評価できる。
東京高等裁判所は,判決の最後に,「原告の方は,自らの体のことや手術を受けたこと,訴訟を起こしたことによって差別されることなく,これからも幸せに過ごしてもらいたいと願いますが,それを可能にする差別のない社会を作っていくのは,国はもちろん,社会全体の責任だと考えます。」と付言した。旧優生保護法に基づく不妊手術の被害者は高齢であり,全国の原告ら25名のうち4名が提訴後に亡くなっている。したがって,一刻も早い被害回復が必要である。
当会は,国に対し,大阪及び東京の各高等裁判所の判決を真摯に受け止め,全面的な解決に向けて大きく舵を切り直し,長年にわたって苦しめられてきたすべての被害者に一刻も早く謝罪し,賠償をしていただくよう強く望む。当会としても,誰もが人間としての尊厳を保ちながら,一人ひとりが大事にされる差別のない社会の実現を目指し,あらゆる努力を重ねていく所存である。
2022年(令和4年)3月18日
熊本県弁護士会
会 長 原 彰宏