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生活保護基準引き下げの見直しを求める会長声明

2022.06.15

 2022年5月25日、熊本地方裁判所民事第三部(中辻雄一朗裁判長)は、2013年8月から3回に分けて実施した生活保護基準の引き下げは生存権を保障した憲法25条に反するなどとして、熊本県内の生活保護利用者らが、保護費の減額決定の取り消しを求めた訴訟において、生活保護基準の引き下げが厚生労働大臣に与えられた裁量権を逸脱又は濫用した違法なものと認められるとして、保護費の減額決定を取り消す判決を言い渡した。
 本判決は、ゆがみ調整について、生活保護基準部会による検証結果を増額分についても一律に2分の1にした際に専門的知見に基づく適切な分析及び検討を怠ったとして、厚生労働大臣の判断過程及び手続に過誤欠落があると判断した。
 また、デフレ調整についても、特異な物価上昇が起こった2008年を起点としたこと、生活扶助相当CPIという独自の計算により、被保護世帯の消費の実態とはかけ離れた物価下落率を算定したことについても、専門的知見に基づく適切な分析及び検証を行うことが必要であり、これを経ずになされたデフレ調整を行った厚生労働大臣の判断過程及び手続に過誤欠落があると判断し、同様にゆがみ調整に加えてデフレ調整を行うことの違法性も認定した。
 かかる本判決の指摘は、生存権の重要性に鑑みて、行政機関が専門的な検証を経ることなく恣意的に「健康で文化的な最低限度の生活」を定めることが許されないことを的確に指摘しており、高く評価すべきものである。
 当会は、かねてより、「生活保護基準は、憲法25条が保障する『健康で文化的な最低限度の生活』を具体化する基準であり、最低賃金、就学援助の給付対象基準、介護保険の保険料・利用料や地方税の非課税基準等の労働・教育・福祉・税制などの多様な施策の適用基準と連動している。生活保護基準の引下げは、生活保護利用者の生活を追い詰めるだけでなく、市民生活全般に悪影響をもたらしかねないものであり、容認できない。」として、生活保護基準の引き下げに強く反対してきた(2018年1月10日「生活保護基準引き下げを行わないよう強く求める会長声明」)。
 格差と貧困が拡大固定化する中で、新型コロナウイルス感染症の蔓延が社会生活に大きな打撃を与える中、最後のセーフティネットとしての生活保護の重要性はますます高まっている。
 よって当会は、国に対し、本判決の意義を重く受け止め、早急に現在の生活保護基準を見直し、2013年8月以前の生活保護基準に戻し、生存権を具体的に保障することを求めるとともに、当会としても生活保護制度の改善と充実のための相談・提言活動をこれからも積極的に行っていく決意を表明する。

2022年6月15日
熊本県弁護士会
会長 福岡 聰一郎