１　長期に及ぶ新型コロナウイルスの感染まん延により、働く者の収入が減少しています。
　２０２１年１０月の公益財団法人連合総合生活開発研究所の調査によれば、１年前と比較した現在の賃金収入について、「かなり増えた」又は「やや増えた」と回答した者が１９．３パーセント、「やや減った」又は「かなり減った」と回答した者が２８．６パーセントでした。また、１年前と比較した世帯収入について、「かなり増えた」又は「やや増えた」と回答した者が１６．６パーセント、「やや減った」又は「かなり減った」と回答した者が３０．７パーセントに及んでいます。
　さらに、ロシアのウクライナ侵攻の影響もあり、食料品や光熱費など生活関連品の価格が急上昇しています。労働者の生活を守り、新型コロナウイルス感染症に向き合いながら経済を活性化させるためにも、最低賃金額を大きく引き上げることが重要です。

２　世界各国の情勢を見ても、フランスの最低賃金額について、２０２１年１月に１０．２５ユーロに引き上げられましたが、さらに同年１０月から１０．４８ユーロに引き上げられました。
　ドイツでは、２０２１年７月に９．６０ユーロに引き上げられましたが、２０２２年１月に９．８２ユーロとなり、同年７月に１０．４５ユーロへ引上げとなることが決まっています。さらに、同年１０月から１２ユーロに引き上げることについて国会で審議中です。
　イギリスでも、２０２１年４月から２３歳以上の労働者の最低賃金が８．９１ポンドに引き上げられましたが、さらに２０２２年４月から９．５ポンドに引き上げられました。
韓国では、２０２１年１月に８７２０ウォンに引き上げられましたが、２０２２年１月から９１６０ウォンに引き上げられました。
　このように多くの国で、コロナ禍で経済が停滞する状況下においても最低賃金の大幅引上げが実現しているところであり、我が国でも、コロナ禍での経済停滞を言い訳とすることなく、２０２２年において大幅引上げが必要です。

３　最低賃金の地域間格差が依然として大きく、格差が是正していないことは重大な問題です。
２０２１年の最低賃金は、最も高い東京都で時給１０４１円であるのに対し、熊本県の最低賃金は、８２１円であり、２２０円の開きがあります。
　最低賃金の高低と人口の転入出には強い相関関係があり、最低賃金の低い地方の経済が停滞し、地域間の格差が縮まるどころか、むしろ拡大しています。
都市部への労働力の集中を緩和し、地域に労働力を確保することは、地域経済の活性化のみならず、都市部での一極集中から来る様々なリスクを分散する上でも極めて有効です。

４　地域別最低賃金を決定する際の考慮要素とされる労働者の生計費は、最近の調査によれば、都市部と地方の間で、ほとんど差がないことが明らかになっています。
　これは、地方では、都市部に比べて住居費が低廉であるものの、公共交通機関の利用が制限されるため、通勤その他の社会生活を営むために自動車の保有を余儀なくされることが背景にあります。
　そもそも、最低賃金は、「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために必要な最低生計費を下回ることは許されません。労働者の最低生計費に地域間格差がほとんど存在しない以上、全国一律最低賃金制度を実現すべきであります。

５　現在、厚生労働省の中央最低賃金審議会において「目安制度のあり方に関する全員協議会」が設置され検討がなされており、２０２３年３月をめどに報告がまとめられる予定です。
　中央最低賃金審議会は、地域別最低賃金引上額の目安を決定するに当たって、全国をＡ～Ｄの４つに区分し、これまではそれぞれの引上額の目安に差を設けています。
　しかしながら、２０２０年、２０２１年は、Ａ～Ｄ全ての地域に一律の目安額を示しました。さらにＣ、Ｄ地域の地方最低賃金審議会では目安額を上回る答申が相次ぎました。
　全員協議会においては、地域間格差の拡大をもたらした目安制度がもはや機能不全に陥った現状を直視し、目安制度に代わる抜本的改正策として、全国一律制実現に向けた提言をなすべきです。

６　最低賃金引上げに伴う中小企業への支援策について、現在、国は「業務改善助成金」制度により、影響を受ける中小企業に対する支援を実施しています。
　しかし、利用件数はごく少数であり、我が国の経済を支えている中小企業が、最低賃金を引き上げても円滑に企業運営を行えるように充分な支援策を講じることが必要です。
　具体的には、社会保険料の事業主負担部分を免除・軽減することによる支援策が有効であると考えられます。

７　以上より、当会は、中央最低賃金審議会に対しては、目安制度に代わる全国一律最低賃金制の実現及び全国すべての地域において最低賃金の引上げの答申を求めるとともに、熊本地方最低賃金審議会に対しては、労働者の健康で文化的な生活を確保し、これにより地域経済の健全な発展を促すためにも、最低賃金を大幅に引き上げる答申を行うよう求めます。

２０２２年（令和４年）６月１５日
熊本県弁護士会
会長　福岡聰一郎