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「大崎事件」第4次再審請求再審棄却決定に関する会長声明

2022.07.20

 鹿児島地方裁判所(中田幹人裁判長)は、2022年(令和4年)6月22日、原口アヤ子氏等のために親族が申し立てたいわゆる大崎事件第4次再審請求事件につき、再審請求を棄却する旨の決定(以下「本決定」という。)をおこなった。

 大崎事件は、1979年(昭和54年)10月、原口アヤ子氏が、元夫、義弟との計3名で共謀して被害者を殺害し、その遺体を義弟の息子も加えた計4名で遺棄したとされる事件である。逮捕時からの一貫した無罪主張にもかかわらず、確定審では、「共犯者」とされた元夫、義弟、義弟の息子の3名の「自白」、その「自白」で述べられた犯行態様と矛盾しない法医学鑑定、共犯者の親族の供述等を主な証拠として、原口アヤ子氏に対し、懲役10年の有罪判決が下された。

 第4次再審請求審の鹿児島地方裁判所が、アヤ子氏が高齢であることに鑑み迅速でありながらも充実した審理をおこなうようにという弁護人の要請にこたえ、申立てから2年弱の期間に臨床医学、供述心理等に関する5名の鑑定人の証人尋問をおこなった点は評価できる。しかし、弁護人請求の鑑定の証明力を正しく評価せず、白鳥決定(最決昭和50年5月20日刑集29巻5号177頁)及び財田川決定(最決昭和51年10月12日刑集30巻9号1673頁)が示した「新旧全証拠の総合評価」も適切に行わず、誤った結論に至った。何より、本決定は「疑わしいときは被告人の利益に」の鉄則が新証拠の明白性判断に適用されると宣言した白鳥・財田川決定に背を向ける内容である。その結果、第1次再審請求以来三度開きかけたにもかかわらず、その都度閉ざされてきた再審への扉を、またも閉ざしてしまった。このように誤った判断をおこなった鹿児島地方裁判所の責任はきわめて重い。

 本件は、発生から40年を超える歳月が経過した。原口アヤ子氏は95歳と高齢であり、早期に権利救済をおこなう必要がある。当会は、本決定を強く非難するとともに、抗告審裁判所に対し可能な限り迅速な審理をおこない開始決定をおこなうよう強く求める。

2022(令和4)年7月20日
熊本県弁護士会
会長 福 岡 聰一郎