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旧優生保護法に基づく被害に関する国家賠償請求訴訟の判決を受けて、改めて被害者の救済を求める会長声明

2023.02.02

 熊本地方裁判所は、令和5年1月23日、旧優生保護法に基づく不妊手術を受けた2名が国を訴えた訴訟について、国に損害賠償を命じる判決を言い渡した。
 旧優生保護法は、不良な子孫の出生を防止するため、生殖機能を奪う不妊手術である優生手術を行うこととしていたが、本判決は、そのような目的は差別的な思想に基づくもので、優生手術という手法も子孫を残すという生命の根源的な営みを否定するきわめて非人道的なものであって、目的及び手段には正当性も合理性もないとして、優生条項(優生手術を行う旨の旧優生保護法の条項)が、憲法13条の幸福追求権、自己決定権を侵害するものであったと判断した。さらに、本判決は、優生条項は、特定の障害や疾患を有する者ないしその近親者を不合理に差別するものであって、憲法14条の法の下の平等にも反すると判断した。
 優生手術が非人道的な人権侵害であって、憲法に違反することは、他の裁判所の判決においても繰り返し示されており、疑いの余地がないといえる。
 その上で、本判決は、全国的かつ組織的に強度・強烈な人権侵害である優生手術が行われていたという被害の甚大性、優生手術を長期にわたって推進し、被害者への救済などの対応をとらなかった国の重大な帰責性、資料が散逸している中で羞恥や後悔などの念を有する被害者が権利行使を行うことの困難性、憲法の最高法規性といった事情をあげて、優生手術を受けた者に対して除斥期間を適用することは、民法の信義則や個人の尊厳、条理の法意から見逃しがたい重大な問題があるとした。そして、少なくともいわゆる一時金支給法の成立前に提訴をした原告らについて除斥期間を適用することには著しく正義・公平の理念に反する特段の事情があるとして、除斥期間は適用されないと判断し、国に損害賠償責任があると認めた。
 本判決は、国が組織的に優生政策を実施し、障害者に対する偏見・差別を固定化してきたなどの被害の実態を踏まえて、除斥期間の適用を排除したものである。いまだ提訴をしていない者も含め、多数の被害者の救済の道を広げる画期的なものと評価できる。
 一方で、被害者が国家賠償請求を行うには多大な時間的、経済的、精神的負担を伴うこともまた否定できず、実際に国家賠償請求を行っている者が少数にとどまっていることからしても、立法による解決が不可欠である。
 当会は、令和4年3月18日にも、「旧優生保護法不妊手術被害者の早期・全面的救済を求める会長声明」を発しているが、いまだ司法判断以外に被害者の救済に向けた実効的な動きはみられない。被害者の多くが高齢であることからも、一刻も早い救済が必要である。
 そこで、当会は、国に対し、本判決に対して控訴せず、一刻も早く本判決を確定させるよう求めるとともに、改めて優生政策の誤りや旧優生保護法による被害に真摯に目を向け、被害者への謝罪を行うとともに、被害者救済のための制度の確立を強く求める。
 当会としても、引き続き、障害や疾患の有無にかかわらず、誰もが個人として尊重される社会を目指して努力を惜しまない決意である。

令和5年2月2日
熊本県弁護士会
会長 福岡聰一郎