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いわゆる谷間世代への一律給付実現と修習給付金の増額を求める会長声明

2023.03.07

1 司法権は三権の一翼であり、司法権を担う法曹(裁判官・検察官・弁護士)を養成することは、国の責務である。
 現行の司法修習制度は、国が、司法権の強化を図るため、1947年(昭和22年)、日本国憲法施行と同時に開始したものである。そして、国は、司法修習制度を効果的なものにするため、司法修習生には、修習専念義務を課す一方で、国家公務員に準じた給与を支給するという給費制を、終戦直後の貧しかった日本で導入し、この給費制は60年以上にわたり維持されてきた。
 しかしながら、この給費制は、2011年(平成23年)採用の新65期司法修習生から廃止された。2017年(平成29年)には裁判所法改正により新たに修習給付金制度が創設されたものの、それまでの6年間に修習を始めた新65期から70期の司法修習生は、無給での司法修習を強いられ、いわゆる「谷間世代」となった。
2 谷間世代の法曹は、司法修習中に無給であったことによって多大な経済的負担を強いられた。多くの者が司法修習中の貸与金に加えて奨学金の返済をしており、中には1000万円を超える債務を負う者もいる。さらに、谷間世代の法曹は、法曹人口が急激に拡大していく中で法曹となって、厳しい就職状況におかれ、法曹となった後に十分な収入が確保されるような状況にはなかった。
 そのような厳しい状況の中でも、多くの谷間世代の法曹が、現在、法曹としての職責を果たそうと、様々な領域で活動している。
 しかし、谷間世代を対象としたアンケートによれば、誰かの役に立ちたくて弁護士となったものの公益的な活動をする経済的な余裕がない、不公平・不平等感が拭えない、司法修習の期間に国に借りた貸与金の返済をするたび複雑な思いを抱くなどの率直な回答が寄せられている。
 谷間世代の法曹は、全法曹の約4分の1を占めている。この世代の法曹が、司法修習中に給付が受けられなかった経済的、精神的影響により活動を広げることができない状況は、司法の弱体化につながりかねない問題である。加えて、谷間世代とそれ以外の世代との間に著しい不公平・不平等が存在することは明らかである。
 このような状況を是正するためには、国が、谷間世代に対して一律の経済的給付を行うことが不可欠である。
3 また、現在の修習給付金制度も、原則月額13万5000円しか給付されない。この額は、司法修習に専念するには不十分な金額といわざるを得ず、谷間世代の問題と同様に、将来の法曹の活動に影響を与えかねない。
 実際にも、給費制が廃止された前年度である2010年(平成22年)の司法試験受験者数が8163人であるのに対し、修習給付金制度が開始した2017年(平成29年)の同受験者数が5967名、2022年(令和4年)の同受験者数が3082名と、修習給付金制度が開始してからも司法試験受験者数の減少が続いていることからすれば、法曹志望者にとって司法修習生に対する経済的措置が充分であるとは評価されていないことがうかがえ、法曹志望者の減少の一因になっていることは否定できない。
 将来の司法権を担う司法修習生が修習に専念するためには、修習給付金を増額することが必要である。
4 名古屋高等裁判所2019年(令和元年)5月30日判決においては、「従前の司法修習制度の下で給費制が果たした役割の重要性及び司法修習生に対する経済的支援の必要性については、決して軽視されてはならない」、谷間世代の多くが「他の世代の司法修習生に比し、不公平感を抱くのは当然のことである」、「谷間世代の者に対しても一律に何らかの給付をするなどの事後的救済措置を行うことは、立法政策として十分考慮に値する」と付言しているとおり、谷間世代の不平等の是正及び司法修習生に対する経済的措置の充実は、司法のみならず、立法、行政の課題でもある。
5 以上のとおり、谷間世代に対する一律給付及び修習給付金の増額は、法曹志望者の増加や将来の法曹の活動を広げることになり、司法機能を強化して、国民の利益に結びつくことは明らかである。
 谷間世代への一律給付実現のため、日本弁護士連合会・各弁護士会に対して、多くの国会議員から応援メッセージが寄せられている。メッセージの総数は、2023年(令和5年)3月3日に360通となり、衆参両院の合計議員数の過半数に達した。メッセージをお寄せいただいた国会議員の皆様に対し、改めて感謝するとともに、敬意を表する。
 応援メッセージは与野党を問わずお寄せいただいており、谷間世代への一律給付実現についての理解が与野党の垣根を越えて広がっているものと認識している。
 当会は、今一度、政府(特に、法務省、財務省)、最高裁判所及び国会に対して、谷間世代に対して早急に一律給付を行うとともに、司法修習生が経済的にも精神的にも修習に専念できるよう修習給付金を増額することを求める。

2023(令和5)年3月6日
熊本県弁護士会
会長 福 岡 聰一郎