内閣総理大臣秘書官による性的少数者に対する差別発言に抗議し、改めて、法令上の性別が同じ者の婚姻を可能とする早期の法律改正を求める会長声明
岸田文雄内閣総理大臣は、本年2月1日の第211回通常国会予算委員会において、同性婚について質問され、「極めて慎重に検討すべき課題である」と従来どおりの消極的な見解を述べた上、さらに、「家族観や価値観やそして社会が変わってしまう。こうした課題であります」と答弁した。
そして、報道によれば、同月3日、内閣総理大臣秘書官(当時)は、記者団から総理大臣の前述の発言について質問され、「(同性婚制度の導入について)社会が変わる。社会に与える影響が大きい」「マイナスだ。秘書官室もみんな反対する」「隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」「同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる」などと発言したとのことであった。
秘書官の上記発言は、婚姻できない等の重大な人権侵害を受けている性的少数者の現状を全く踏まえないものであり、かつ、その存在と尊厳を否定するに等しい差別発言であって、断じて許されない。
令和3年3月17日、札幌地方裁判所は、同性間の婚姻を認めない民法及び戸籍法の婚姻に関する諸規定は、法の下の平等を定める憲法14条1項に違反するとの判決を言い渡した。さらに、令和4年11月30日、東京地方裁判所は、同性間の婚姻ができない現状を、憲法24条2項に反し違憲であるとの判決を言い渡した。
現時点で同種訴訟の判決を言い渡した3つの裁判所のうち2つの裁判所が、同性間の婚姻を認めない民法及び戸籍法の婚姻に関する諸規定を憲法に反すると判断しているところ、今後、同種訴訟の判決が、本年5月30日には名古屋地方裁判所で、本年6月8日には福岡地方裁判所で言い渡される予定となっており、それらの裁判所が札幌地方裁判所や東京地方裁判所と同様の判断をすることも十分に考えられる。
熊本県弁護士会は、前述の札幌地裁判決を受け、令和3年5月25日、「いわゆる同性婚訴訟の札幌地裁判決を受け、早期の法律改正を求める会長声明」により、国に対し、同判決を真摯に受け止め、重大な人権侵害を生んでいる現在の違憲状態を速やかに解消するべく、法令上の性別が同じ者どうしの婚姻が可能となるよう法律改正に直ちに着手することを強く求めたところである。
そもそも、平成27年2月18日、安倍晋三内閣総理大臣(当時)が、同性婚について「極めて慎重な検討を要する」と述べて以来、約8年にわたり、歴代の首相は、同じ言葉を繰り返し、法令上の性別が同じ者どうしの婚姻が可能となるよう法律改正を行うことに何ら取り組んでこなかった。そのような政府の姿勢の中、前述の差別発言がなされた。当会は、このことを重く考え、国に対し、改めて、法令上の性別が同じ者どうしの婚姻を可能とする法律改正に直ちに着手することを強く求める。あわせて、内閣総理大臣秘書官という政府の中枢にある者からさえも性的少数者に対する差別発言がなされるという現状にも鑑み、国に対し、性的指向及び性自認(性同一性)を理由とする偏見や差別を無くすための施策を行うことを強く求める。
なお、当会では、平成30年3月6日に採択された「男女共同参画を推進する宣言」において、性的指向及び性自認に関する差別的な取扱いを防止するための取り組みや性の多様性尊重に関する取り組みを進めることを宣言している。当会は、性的指向に基づく差別を含め、あらゆる差別や不利益取扱いを社会から無くし、個人が尊厳を持って生きることができる社会を実現するべく、引き続き取り組む所存である。
熊本県弁護士会
会長 福 岡 聰 一 郎