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名古屋地裁判決及び福岡地裁判決を受け、直ちに同性間の婚姻制度の実現を求める会長声明

2023.07.19

1 同性間の婚姻ができない現在の婚姻に関する民法及び戸籍法の諸規定(以下、「本件諸規定」という)が違憲であるとして、国に対し、婚姻できないことによって被った精神的な損害の賠償を求めた裁判において、令和5年5月30日に名古屋地方裁判所は、本件諸規定が憲法14条1項及び憲法24条2項に違反する旨の判決(以下、「名古屋地裁判決」という)を、これに続く同年6月8日に福岡地方裁判所は、本件諸規定が憲法24条2項に違反する状態である旨の判決(以下、「福岡地裁判決」という)を言い渡した。

2 名古屋地裁判決は、 婚姻制度が、両当事者の関係性を保護するための法律上の効果を付与するだけでなく、その関係性を公証し、正当な関係として社会的承認を与えるための極めて有力な手段となっていることを指摘した。そして、当事者の関係が国の制度により公証され、その関係を保護するのにふさわしい効果を付与されるための枠組みが与えられるということ自体が重要な人格的利益であると述べ、このような重要な人格的利益を享受できないことによって同性カップルが被る不利益は重大であり、その規模も期間も相当なものであって、その影響は深刻であると指摘した。
 その上で、同性カップルは、法律婚制度に付与されている重大な人格的利益を享受することから一切排除されているのに対し、その状態を正当化するだけの具体的な反対利益は十分に観念しがたく、もはや個人の尊厳の要請に照らして合理性を欠くに至っており、国会の立法裁量の範囲を超えているとして、本件諸規定は、同性カップルに対して、その関係を国の制度によって公証し、その関係を保護するのにふさわしい効果を付与するための枠組みすら与えていないという点で、憲法24条2項に違反すると結論付けた。
 さらに、本判決は、同性愛者にとって同性との婚姻が認められていないということは、性的指向により別異取扱いがなされていることに他ならないと指摘し、憲法14条1項にも違反するとした。

3 福岡地裁判決は、永続的な精神的及び肉体的結合の相手を選び、家族として公証する制度は、現行法上婚姻制度しか存在せず、我が国では、公的な権利関係に留まらず、私的な関係においても家族であることが公証されることで種々の便益を得られる仕組みが多数存在するところ、このような公的な権利関係や事実上の利益を発生させる基本的な単位であるはずの婚姻ができず、その効果を自らの意思で発生させられないことは看過しがたい不利益であると指摘した。そして、国民の意識における婚姻の重要性も併せ鑑みれば、婚姻をするかしないか及び誰とするかを自己の意思で決定することは、同性愛者にとっても尊重されるべき人格的利益であることを認めた。
 その上で、本件諸規定の下で同性カップルは婚姻制度を利用することによって得られる利益を一切享受できず法的に家族と承認されないという重大な不利益を被っているとし、婚姻制度の実態や婚姻に対する社会通念が変遷し、同性婚に対する国民の理解が相当程度浸透していることに照らすと、同性カップルに婚姻制度によって得られる利益を一切認めず、自らの選んだ相手と法的に家族になる手段を与えていない本件諸規定は、もはや個人の尊厳に立脚すべきものとする憲法24条2項に違反する状態であると言わざるを得ない、と断じた。

4 同種の訴訟は、札幌、東京、大阪、名古屋、福岡の全国5地裁に係属していたところ、東京二次訴訟が東京地方裁判所で係属中ではあるが、上記両判決をもって5地裁の判決が出揃った。
 本件諸規定を憲法14条1項違反とした令和3年3月の札幌地裁判決、同性愛者についてパートナーと家族になるための法制度が存在しないことについて憲法24条2項に違反する状態にあるとした令和4年11月の東京地裁判決と合わせ、5判決中4件において憲法に反する旨の判断がなされた。合憲と判断された同年6月の大阪地裁判決においても、将来的に違憲となる可能性について言及しており、同性カップルについて、異性カップルと同様に家族として法的に保護するための制度が必要であるとの司法判断の流れは確定し、もはや動かしがたいものとなったというべきである。

5 当会は、令和3年5月25日の「いわゆる同性婚訴訟の札幌地裁判決を受け、早期の法律改正を求める会長声明」において、国に対し、重大な人権侵害を生じさせている違憲状態を解消すべく同性間の婚姻が可能となるよう法律改正に直ちに着手することを求めた。
 しかし、政府・与党は、従前から、「極めて慎重な検討を要する。」との答弁を繰り返すばかりであり、令和5年2月1日の衆議院予算委員会において、岸田文雄内閣総理大臣は、制度を改正すると家族観や価値観、社会が変わってしまう課題であると述べ、政府の後ろ向きの姿勢が改めて浮き彫りとなった。
 当会は、さらに、同年3月8日に「内閣総理大臣秘書官による差別発言に抗議し、改めて、法律上の性別が同じ者の婚姻を可能とする早期の法律改正を求める会長声明」を発し、性的指向及び性自認を理由とする偏見や差別をなくすための施策を求めるとともに、同性間の婚姻が可能となる法律改正に着手することを求めてきた。
 一連の判決が厳しく指摘するとおり、同性愛者には、パートナーと家族になる法制度がなく、その生涯を通じて、家族を持ち家庭を築くことが極めて困難である。このことは、法律上の性別が同じ者をパートナーとする者にとって、その人格的生存に対する重大な脅威、障害となっている。名古屋地裁判決、福岡地裁判決が言い渡された今、同性間の婚姻を可能とする法制度を直ちに整備すべきである。

2023年(令和5年)7月19日
熊本県弁護士会
会 長  渡 辺 裕 介